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2023 年 9 月 26 日

経済サプライズ: 市場に最も影響を与える 5 つの指標

本稿は英国現地時間 2023 年 7月 27 日に投稿された“Economic surprises:  Five indicators that impact markets the most” の邦訳です。

Maria Vieira, Ph.D
Quantitative Research Analyst, Refinitiv

リフィニティブのファイナンシャル・モデリング「StarMine」は、適切な経済的インサイトと厳密な分析に基づいて、より高いリターンの達成を支援するソリューションです。

私たち StarMine 調査チームは、この「StarMine」を活用し、米国の経済データのサプライズが外国為替レート (FX) や国債価格、株式価格に最も影響を与える 5 つの指標を調査しています。

 

調査から見えたポイント

  1. 平均して、インフレは雇用とは異なる形で市場に影響を及ぼします。外国為替レートと債券価格は雇用と同じ方向の影響を及ぼしますが、株式価格は逆の方向に影響します。
  2. さまざまな市場で最も影響力のある指標には共通点がありますが、為替や債券と比べてインフレが株式に与える影響など、いくつかの違いも存在します。

 

I. はじめに

市場関係者のコンセンサスとは大きく異なる経済データが発表されたことで市場が動く、というのは決して目新しいものではありません。本稿ではそのことを前提に、2009 年から 2022 年までの米国市場に焦点を当て、経済データのサプライズが為替レート、国債価格、株式価格に与える影響について、最もインパクトのある 5 つの指標 (非農業部門雇用者数、民間給与、ISM製造業PMI、GDP速報値、コアCPI mm) を調査した結果をコンパクトにお伝えします。

なお、数十の指標を含む経済データのサプライズに関する詳細な分析・解説は、ホワイトペーパー「経済サプライズ: 何が本当に市場を動かすのか (Vieira, M., 2023 年) (英語)」にてお伝えしています。ぜひこの機会にご覧ください。

 

II. 調査の概要

主要通貨の中で米国の経済発表の影響を最も大きく受けるのは日本円であるため、今回の為替影響調査では米ドル/円の為替レートに着目しました。

債券価格への影響については、米国 10 年国債を選択し、株式価格への影響については流動性の高い E-mini S&P500 指数を選択しています。それらについて、1 分間の頻度データを使用し、影響については経済指標発表前後の 5 分間の枠内で計算しました。

市場への影響を示す図として、図 1 は 2022 年 11 月の米国非農業部門雇用者数発表に対する米ドル/円レートの反応を示しています。実際の結果が発表される前の、調査の市場予想コンセンサスは「200.0 (20 万人) 」でした。

2022 年 12 月 2 日、東部時間午前 8 時 30 分に実際の雇用者数が「263.0 (26.3 万人) 」であると発表され、サプライズは「63.0 (6.3 万人) 」となりました。外国為替市場では即座に反応があり、米ドル/円レートは数分以内に一ドル約 134.1 円から 135.7 円まで急上昇しました。

 

図 1 – Refinitiv Tick History から取得した、2022 年 12 月 2 日の米ドル/円レートと時間の相関関係。米国の非農業部門雇用者数は東部時間午前 8 時 30 分 (日本時間午後 13 時 30 分) に発表された。この値は 263.0 (26.3 万人) で、市場コンセンサス予想を 63 万人上回り、当時のスポット金利の大幅な上昇を引き起こすことになった。

 

経済サプライズに対する指標の影響を調査するために、まず指標発表前後の 5 分間の為替レートの変化を計算しました。次に、実際のサプライズを 5 分位化し、各分位の実際のサプライズの米ドル/円レートの平均変化率を測定しました。

影響度は、第 5 分位 (最もポジティブなサプライズ)  から第 1 分位 (最大のネガティブなサプライズ)  の間の平均為替レート変化の差を計算することによって測定されています。私たちは債券市場と株式市場についても同様の分析を行いました。

 

III. 最も影響力のある 5 つの指標

以下に示した表 1 では、各市場の最も影響力のある 5 つの指標と、それぞれの5 分位間のスプレッドを示しています。スプレッドがプラスであるということは、米ドル/日本円または米 10 年債価格または S&P500 E-mini がプラスのサプライズと同様に上昇することを意味し、スプレッドがマイナスであればその逆を意味します。他の調査結果と一致して、外国為替市場において、米国の非農業部門雇用者数が最も影響力のある指標であり、次に民間給与と ISM 製造業 PMI が続いていることがわかりました。日本円に関しては、雇用統計のサプライズの数字が大きいほど米ドルが強くなる傾向が見られます。

為替の場合と比較すると、絶対値で見ると、債券にとって最も影響力のある指標も米国の非農業部門雇用者数であることがわかりました。しかし、その影響力は逆相関の関係にあり、雇用統計に関するサプライズが大きいほど債券価格は下落しています。

つまり、より大きな雇用サプライズがあればインフレ圧力が高まる可能性が大きく、その結果、連邦公開市場委員会が金利を引き上げることになり、債券価格にマイナスの影響を与えることになるというわけです。

株式については、最も影響力のある指標は民間給与ですが、その影響力は非農業部門雇用者数よりも大きくはありません。コアCPI (前月比) は株式にとって非常に強いインパクトがあり、4番目に重要な指標ですが、雇用とは異なる方向で株式価値に影響を与えます。

私たちが調査した異なる市場全てで共通する最も影響力を持つ 4 つの指標は、非農業部門雇用者数、民間給与、ISM 製造業 PMIそしてコアCPI(前月比)でした。5つの最も影響力のある指標の中で、為替ではGDP先行指数、債券では平均時給(前月比)、株式では小売売上高(前月比)が最も重要な指数でした。

 

USD/JPY 米 10 年債価格 S&P500 E-mini
非農業部門雇用者数 (0.54%) 非農業部門雇用者数 (-0.57%) 民間給与 (0.45%)
民間給与 (0.51%) 民間給与 (-0.54%) 非農業部門雇用者数 (0.44%)
ISM 製造業 PMI (0.30%) ISM 製造業 PMI (-0.29%) ISM 製造業 PMI (0.41%)
GDP 先行指数 (0.30%) コア CPI (前月比 )(-0.29%) コア CPI (-0.34%)
コア CPI (前月比) (0.26%) 平均時給 (前月比) (-0.29%) 小売売上高 (前月比) (0.31%)

表 1 - 米国の各市場 (為替、債券、株式) で最も影響力のある 5 つの指標。カッコ内の数字は 5 分位間のスプレッド値を示します。

 

以下の図 2 は、非農業部門雇用者数とコア CPI (前月比) にサプライズが生じた際、為替レートや債券価格、株価指数がどのように変化するかを示しています。目安として、回帰直線を黒の破線として追加しました。

非農業部門給与のプロットから、2020 年と 2021 年に起こった大きなサプライズ  (絶対値)  である 5 つの値  (調査の 156 件のうち)  を外れ値とみなして削除し、サプライズが発生するケースのみを残しました。回帰直線の傾きは 5 分位分布の結果と定性的に一致します。つまり、5 分位分布が正であれば傾きも正になり、その逆も同様というわけです。

 

図2 - 左列: 非農業部門雇用者数と、(a) 米ドル/円、(b) 米国 10 Y国債価格、(c) S&P500E-Mini 指数の差。

右列: 非農業部門雇用者数と、(d) 米ドル/円、(e) 米 10 年債価格、(f) コア CPI (前月比) の S&P500 E-Mini 指数の差。

変動は実際の指標発表時刻の前後 5 分間で計測。サンプルは、2009 - 2022 年の最初の指標発表前最後の調査をすべて含む。

 

米ドル/日本円に代表される為替、米 10 年債価格、S&P 500 E-Mini 指数に最も影響力のある 5 つの指標を調査した結果、さまざまな市場にとって 5 つの指標が共通して最も影響力のあることがわかりましたが、いくつかの相違点も確認できました。

その中でも最も興味深いのは、どのようにインフレが株式に影響を与えるのかを、為替や債券と比較したときの違いです。最も影響力のある 5 つの指標のうち、4 つは為替、債券、株式に共通しています。

ホワイトペーパー「経済サプライズ: 何が本当に市場を動かすのか (2023年) (英語)」では、本稿の内容をより詳細に解説しています。この機会にぜひご一読ください。

 

本稿は英国現地時間 2023 年 7 月 27 日に投稿された "Economic surprises: Five indicators that impact markets the most" の邦訳です。

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