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2019年11月28日

金融への期待と現実、そして変貌

レンブラント作「ガラリアの海の嵐」は、現在の金融を取り巻く環境を暗示しているようだ。グローバル金融危機により、金融機関の護送船団は、嵐の海に投げ出されたと言えよう。しかし、その後の10年の関係者の努力で、バーゼルIIIも最終化し、突然の大嵐のようなテールリスクへの備えはできたように思える。

リフィニティブ・ジャパン株式会社

代表取締役社長

富田 秀夫

このブログを書いていたのは、まさに史上最大級と形容された台風19号が迫りくる時だった。海に近い我が家で、不気味な風の音を聞いていると、レンブラントの絵画「ガラリアの海の嵐」が思い出された。

リフィニティブ・ジャパンの平塚マルセロは、10月3日に都内で開催されたリスク・サミットにおける午後の部の冒頭スピーチで、この絵を大画面に映し出すことで、現在の金融を取り巻く環境を暗示し、昼食直後の聴衆の目を覚まさせた。グローバル金融危機により、金融機関の護送船団は、嵐の海に投げ出されたと言えよう。しかし、その後の10年の関係者の努力で、バーゼルIIIも最終化し、突然の大嵐のようなテールリスクへの備えはできたように思える。

その歩みの中で、当社は日本において過去5年にわたって「金融規制ジャパンサミット」を主催してきた。金融危機後の新たな国際金融規制の枠組みについて、影響、対応や課題について官民から専門家を招き議論を深め、日本における代表的なリスクマネジメント・コンファレンスとしてすっかり定着。しかし、6回目の今回、あえて名称を「ジャパン・リスク・マネジメント・テクノロジー・サミット」に変更した。その理由は何か。テールリスク対策に道筋をつけた金融機関は、今度はむしろ、恒常的かつ構造的な問題への対応を迫られているからである。

そうした新たな問題として、1)恒常的な超低金利とイールドカーブのフラット化の世界的な広がり、2)テクノロジーとデータを武器にした他業態からの金融への参入、3)グローバリズム対保護主義という政治、貿易上の対立軸が金融にまで波及しそうな情勢、4)高齢化や環境、気候変動への対応、マネロン、テロ資金への対策といった社会的な問題の解決に金融が大きな役割を果たすことを期待されている状況-の4点が指摘できよう。こうした新たな課題が山積する中、今年、日本はG20の議長国を務め、6月に福岡で開かれたG20財務大臣・中央銀行総裁会議で、金融庁は、高齢化と金融包摂、技術革新、市場の分断化を今後の重要な課題として俎上に載せた。

保護主義的な規制による市場の分断化は、国際的に事業を展開する金融機関にとっては、資本の最適配分と異なる尺度での分散や、進出先毎に異なる規制への対応コストで、収益を圧迫する。2015年に当社が香港で開催した汎アジア金融規制サミットの基調講演で、当時の金融庁長官だった森信親氏は、過剰規制がもたらす想定外の結果を指摘して国際的に注目を集めた。グローバル金融危機からの教訓を学ぶ過程で、規制強化一辺倒になりがちな流れに一石を投じ、その後のバランスの取れた議論に道を開いた。市場分断化への対応についても、今回のサミットにおける金融庁講演で取り組みの説明があったが、再び国際的指導力を発揮されることを期待したい。

この厳しい金融環境を打破するための方途として、テクノロジーによるイノベーションに期待が高まるが、現状では業務効率化によるコスト削減がその効果の大半ではないか。新たなビジネス創出で、トップラインに貢献するのは、これからの課題と言えそうだ。日本のフィンテックはテクノロジー・ライフサイクルを示すガートナーのハイプ・サイクルになぞらえれば、黎明、流行期を越え、幻滅期から回復期に入りつつあると言ったら多くの反論を受けるかもしれない。しかし、過度の興奮と非現実的な期待が消え、冷静な議論ができる段階にきていることは間違いなさそうだ。今回のサミットでも、AI(人工知能)やビッグデータの活用について、これまでの経験を踏まえた実践的で示唆に富む議論が展開された。

金融の明日を開く可能性は、持ち株会社を通じた他分野への進出か、金融を深めることにあるのかという筆者の問いかけに、対談相手は、金利が長短金利差も含めて、ほぼない状況では、金融で稼ぐのは極めて厳しいと述べた。ならば事業範囲の拡大となる。最近話題の地域商社の設立は、まさにその方向だ。台風接近の前日、知り合いの地銀行員から東京・銀座にあるデパートで物産展をやるという案内を受けて立ち寄った。お釣りのお札の扱いに銀行員であることを伺わせるものの、如才なく地元物産を売る姿を見て、今後の金融のあり方に再び思いを馳せた。

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