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2023 年 8 月 16 日

EU「企業サステナビリティ報告指令 (CSRD) 」に基づく報告義務は EU 域外の企業にどれほどの影響を及ぼすか?

本稿は英国現地時間 2023 年 6 月 2 日に投稿された "How many companies outside the EU are required to report under its sustainability rules?" の邦訳です。

 

Elena Philipova
Director, Sustainable Finance, Data & Analytics, London Stock Exchange Group

サステナビリティ情報開示は今日、企業にとって極めて重要なものとして位置付けられるようになりました。そんな中、新たなニュースとして注目されているのが、2023 年 1 月に発効された、EU「企業サステナビリティ報告指令 (CSRD: Corporate Sustainability Reporting Directive) 」です。

これを受け、2023 年 3 月、ウォール・ストリートジャーナルからリフィニティブに対し、「データを分析して、CSRD に定められた報告義務を負う EU 域外の企業が何社あるか、明らかにすることはできるか?」との興味深い質問が届きました。

実際のところ、CSRD の発効時には、「EU 域外の企業のうちどれほどの数の企業がこの指令に基づく報告義務の対象となるか」が知られていなかったのです。

 

目次

I. サステナビリティ関連情報に対するリフィニティブの強みと実績
II. 「企業サステナビリティ報告指令 (CSRD) 」の概要と背景、企業への影響について
III. EU 域外企業のうち CSRD の対象となる企業をどのように調べたか?
IV. CSRD の発効によって開示することになる内容と企業が直面する課題は?
V. CSRD 対象企業が体制を整えるまでに残された時間と今後の見通し

 

I. サステナビリティ関連情報に対するリフィニティブの強みと実績

  1. LSEG (ロンドン証券取引所グループ) の事業会社であるリフィニティブによる分析は、「CSRDは10,000社以上のEU域外の企業に影響を与える」と報じたウォール・ストリート・ジャーナルの記事 ( "At Least 10,000 Foreign Companies to Be Hit by EU Sustainability Rules" ) の情報ソースとして採用された。
  2. 企業の多くは上述のようなデータの収集に苦労していると見られ、最も多くの問い合わせは米国から寄せられた。
  3. リフィニティブは、あらゆる規模や地域の企業が、必要な情報開示を行えるよう支援している。

 

 

II. 「企業サステナビリティ報告指令 (CSRD) 」の概要と背景、企業への影響について

ここで少し、CSRD を含む EU のサステナビリティ関連の規制や指令の目的や背景、企業への影響について整理しておきましょう。

近年、欧州議会が、ESG (環境、社会、ガバナンス) およびサステナビリティに関する規制や指令を次々と発効しているのは周知の通りです。このような動きの根本には、2050 年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする「欧州グリーンディール」の存在が挙げられます。

CSRD に限って言うなら、企業に対してサステナビリティに関する情報開示の強化を促すことで、持続可能性指標の可用性と信頼性を高め、さらに ESG 投資を実践する投資家を含むさまざまなステークホルダーの要請に応えようとするのが目的として設定されているのだと考えられます。

実際のところ、あらゆる投資家は今日、「利用可能な ESG データが限られていることが持続可能な投資に対する最大の障壁のひとつである」と考えており、そのことは世界トップクラスのインデックス提供企業である FTSE Russell が資産所有者を対象に行った最近の調査でも明らかになっています。

CSRD は、対象となる企業に EU 基準に従って環境と持続可能性の指標を報告することを義務付けることで、上述のような投資家が抱える課題を改善し、持続可能な社会の実現を目指そうとしている、というわけです。

 

 

III. EU 域外企業のうち CSRD の対象となる企業をどのように調べたか?

では、CSRD は期待通りの変化を生み出すことができるのでしょうか?

私たちリフィニティブの分析では、「50,000 社の欧州企業が対象となるという EU の推定に加えて、少なくとも 10,300 社の EU 域外の企業が CSRD の対象となる」とわかっており、この数は「影響の度合いは大きい」と言えると考えています。

地理的な観点から見ると、影響を受けるEU域外の企業の 31% は米国企業であり、次いでカナダ企業が 13%、英国企業が 11% となっています。そのほか、日本企業が 8%、オーストラリア企業が 6%、ケイマン諸島が 5%、バミューダ諸島が 3%、中国本土が 2% と続きます。バーレーンやジンバブエのような小規模経済国を拠点として EU 域内で展開する企業も含めると、合計 60 カ国以上の企業が CSRD に定められた報告を義務付けられることになりそうです。

 

上述の通り、CSRD に定められた報告義務を負う企業には 3,000 社を超える米国企業が含まれており、その中には時価総額が中程度の企業も多数含まれています。私たちの以前の調査の一部では、この規模感の企業では ESG 関連の開示データの可用性が大幅に低いことが判明しているため、CSRD 対応において、データ収集や報告書の作成といった一連の事柄で最も苦労する可能性があると見られます。

ここで、「EU 域外の企業のうち、CSRD の影響を受ける企業をどのように調べたか?」について触れておきましょう。「LSEG Workspace」にて、この指令が対象としている 3 つの広範なビジネスカテゴリに関連する検索キーワードを使用すれば、豊富なデータベースから結果を得ることは比較的簡単です。

なお、主なソート条件は以下の通りです。

  1. EU 域内の市場に上場している株式や債券などの有価証券を保有する企業
  2. EU 域内での年間収益が 1 億 5,000 万ユーロを超える企業、および EU 域内の支店の純収益が4,000 万ユーロを超える企業
  3. EU 域内での年間収益が 1 億5,000 万ユーロを超える企業、および EU 域内の子会社が大企業であり、次の3つの基準のうち少なくとも 2つを満たしていると定義される企業
    ( 1 ) EU域内の拠点で働く従業員が250人以上
    ( 2 ) 貸借対照表が 2,000 万ユーロ以上
    ( 3 ) ( 2 ) または現地の企業 4,000 万ユーロ以上の収益がある

上記のソート条件には、より具体的に、企業の設立国や本社の所在国、収益、ユーロへの為替換算、上場場所、業界および地理的な収益セグメントを含めました。

これらの条件で、CSRDの対象となる約 10,300 社のEU域外の企業を特定しましたが、そのうち 100 社以上の収益は 1 億 5,000 万ユーロを超えています。EU 域内での収益が 1 億 5,000 万ユーロを超えるほとんどの企業が、CSRD 外国企業基準を満たす現地支店または子会社を持っていることを考えると、この数字は現実に近いものになっていると予想されます。

 

IV. CSRD の発効によって開示することになる内容と企業が直面する課題は?

CSRD の対象となる企業は、重要性評価に基づいて、温室効果ガス (GHG) の排出から水質汚染、男女間の賃金格差に至るまでのあらゆる項目を網羅する 82 の開示項目について年次で開示することになり、その独自の報告内容は検証を受ける必要があります。また、業界固有の基準により、さまざまな企業がさまざまな種類のデータを報告する必要もあります。もちろん、データの正当性を担保するための監査も求められます。

このような報告要件を満たすにあたり、多くの企業の現場では、混乱や戸惑いが生じると想像できます。

たとえば、定められたレベルの情報開示をするには、大量の人的リソースは必要であり、取り組みをリードする人材には高度な専門知識が期待されますが、そのような人材確保は容易ではありません。

また、取り組みにかかるコストも懸念される事柄です。CSRD 基準案を作成した欧州財務報告諮問グループ (EFRAG) によると、そのコストは、およそ収益の 0.004% から 0.008% となるとのこと。さらに、これも EFRAG によると、「限定的保証」の年間監査コストは 0.013% から 0.026% になるだろうとしています。

このような課題に直面する企業に対し、リフィニティブでは規模や地域を問わず、企業に求められる ESG およびサステナビリティ情報開示の取り組みを支援するサービスを提供しています。

 

V. CSRD 対象企業が体制を整えるまでに残された時間と今後の見通し

ここまで述べてきた通り、サステナビリティ情報開示への社会的期待が高まる中で発効されたCSRD は、EU 市場に展開する多くの企業にとって無視できない存在であることには間違いありません。

特に最大手の企業―たとえば、EU 域外企業の上場子会社―は、2025 年から報告義務を果たす必要があり、時間的な猶予もそれほどない状態です。また、2029 年までの今後数年間で段階的にあらゆる規模の企業にも適用されることになっているため、対象企業は求められている報告内容の精査やリソース・コストの確保を進める必要があります。

一方、CSRD は EU 域外の企業に影響を与える最も重要な EU 持続可能性指令ですが、これが最後ではありません。

たとえば 2023 年 4 月、欧州議会は新たに「森林破壊防止法」を正式に承認しています。この法律の目的は、森林破壊に関係した農畜産物など産品類のEU域内への輸入を禁止することで、EU 域内で販売されるさまざまな商品のサプライチェーン上から森林破壊の要因を排除することを目指しています。当然ながら、域内におけるメーカーや流通小売業や貿易業には多大な影響を与えることになると見通されます。

また、EU 域内で事業を行う企業のバリューチェーンに沿ったコーポレートガバナンス、人権および環境デューデリジェンスに関する規定を導入する「企業持続可能性デューデリジェンス指令」の採択も進行しているとのこと。

このような動きを含め、EU 市場でビジネスを展開するにあたっては、欧州議会の動向と各種規制等の有り様は常に注目しておくべきです。

EUが企業を持続可能な移行に迅速に適応させる中、真に透明性のある全体像を提供できるのはデータだけです。さらに、投資家に関連するリスクと機会についてのインサイトを得ることも、有意義なものだと考えます。

リフィニティブでは、ESG投資に役立つ多彩なデータやデータを十分に活用するために欠かせないソリューション、および、サステナブルファイナンス規制ソリューションを提供しています。

 

LSEG Workspace®とは?

非常に幅広く詳細な金融データはもちろん、ニュースや専門家による分析コンテンツ、生産性ツールのすべてが高度にカスタマイズされたソリューションです。デスクトップ、ウェブ、モバイルからアクセス可能で、ポストコロナの働き方を協力にアシストします。

 

本稿は英国現地時間 2023 年 6 月 2 日に投稿された "How many companies outside the EU are required to report under its sustainability rules?" の邦訳です。

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