1. ホーム
  2. リフィニティブ・ジャパン ブログ記事一覧
  3. 2022 年、ウクライナ情勢がコモディティ市場にもたらした影響とは

2023 年 4 月 12 日

2022 年、ウクライナ情勢がコモディティ市場にもたらした影響とは

INVESTMENT INSIGHTS

本稿は英国現地時間 2023 年 1 月 13 日に投稿された "How Ukraine transformed commodity markets in 2022" の邦訳です。

Refinitiv Commodities Research

ロシアによるウクライナ侵攻と、それを受けたロシアへの経済制裁の影響により、コモディティ市場は激動の年となりました。この危機がもたらした大きな影響は、価格の変動だけにとどまらず、多くのセクターに及んでいます。

  1. ロシアのウクライナ侵攻は 2022 年の多くのコモディティのパフォーマンスを形成しました。
  2. ウクライナ侵攻は、ボラティリティの上昇と激しい価格高騰を引き起こしましたが、新たなサプライヤーが参入したことで一部の影響は和らいでいます。
  3. ウクライナ紛争から 1 年近く経ち、多くのコモディティ市場がその影響を受けて恒久的に変化したと言えます。

 

I. ガス

2022 年は、欧州ガス市場にとって前例のない年となりました。ガス価格はたびたび過去最高値を更新し、市場の大きな変化と消費パターンの変化がもたらされ、ガス価格の上限設定に関する議論を引き起こしました。

Gazprom (ガスプロム) が EU へのパイプライン供給のほとんどを停止したことで、ガス価格が上昇し、欧州が、航路が特定されていない (uncommitted) LNG 貨物のプレミアム市場になるとともに、欧州各地に新たな LNG 再ガス化設備の建設を促すきっかけとなりました。

Gazprom が EU へのパイプライン供給をほとんど停止したことで、価格が上昇し、欧州は未契約の LNG 貨物のプレミアム市場となり、欧州全域で複数の新しい LNG 再ガス化ターミナルを建設するきっかけとなりました。

価格の上昇は、ロシアからの供給の大部分を代替する形で、大陸への LNG 供給をより増加させることになりました。

残りの不足分は、主に需要削減と直近では需要破壊によって埋められました。家庭需要は、予想以上に穏やかな天候に恵まれた結果、大幅に減少しました。

西欧では、9 月から 12 月にかけて、潜在的な需要破壊が最大 40 ~ 45% に達しました。リフィニティブのモデルによると、需要破壊は主に 10 ~ 20% の範囲で変動しています。

こうした対策やイベントにより、EU は 11 月 1 日までにガス貯蔵目標の 80% を大幅に上回る 95% を確保することができました。

消費量の減少、十分なガス在庫 (12 月 11 日現在 88%) 、堅調な LNG 供給は、今冬の市場に引き続き信頼感を与えています。

天候に関連する長期の需要急増により、時間の経過とともに貯蔵が枯渇し、来冬までの完全な補充が妨げられるというアップサイド・リスクが生じる可能性があります。
 

ウクライナ情勢の影響を受けた世界の主要ガス価格
欧州の月間輸入量 (欧州以外の国からの輸入)、GWh/d
2022 年 9 月から 12 月の潜在的な需要破壊

出所: リフィニティブ、2022 年 12 月 15 日時点
Yuriy Onyshkiv, Senior Analyst, Supply Chain and Commodities Research

 

II. 石油

125 ドル/bbl 以上まで上昇した欧州の石油市場は、2022 年 1 月の水準まで戻っています。

ロシアから欧州への輸出は減少したものの、欧州は中東、中南米、アンゴラから同程度のグレードのものを輸入し、またノルウェーのヨハン・スヴェルドラップからの供給増加により補っています。

欧州は 2022 年第 3 四半期にミディアム・サワー原油を備蓄することができました。これは、将来の供給不足を乗り切る助けとなるかもしれませが、ロシア産原油のアジアへの輸出は高い輸送コストをもたらし、全体の供給量の削減にはなりませんでした。

G7 と EU がロシア産原油の上限価格を 1 バレル当たり 60 ドルとしたことを受けて、同様の流れが加速することになるでしょう。
 

ロシアのディーゼル燃料輸出量

ロシアのウクライナ侵攻以前、欧州はディーゼル燃料の 50 ~ 55% をロシアに依存していましたが、侵攻後、数か月のうちに 40 ~ 45% まで縮小しました。その後は、このレンジの上限までリバウンドしており、2 月 5 日にロシア産原油の禁輸措置が発効されるまでは、このリバウンドの流れが継続する兆候を示しています。買い手は燃料を買い占めており、その結果、冬に備えてより一層の準備が必要です。

しかし、不確実性と混乱が生じるのは、欧州の貯蔵量を満たすためのディーゼル油を求め、また、ロシアが300万~350万トンのディーゼル輸出の新しい輸出先を探す春でしょう。ロシア産原油が今後どこにどのように輸出されるのか、また、欧州が禁輸後のディーゼル油の不足分をどのように調達するのかが、最終的に燃料の市場と価格を形成することになります。

 

北西欧州と地中海へのロシア産原油の輸出

北西欧州と地中海へのロシア産原油の輸出

ディーゼルとガソリンの欧州への輸入量

ディーゼルとガソリンの欧州への輸入量

出所: リフィニティブ、2022 年 12 月 15 日時点
Ehsan-Ul-Haq & Raj Rajendran, Lead Analysts, EMEA – Oil & Shipping Research

 

III. 石炭

ウクライナ情勢により、海上輸送石炭市場は大きな影響を受けています。

2022 年にロシアから欧州へのガス供給が減少したことに加え、原子力発電比率が低下したことにより欧州の無煙炭による発電量が増加し、海上輸送による高 CV 値の一般炭の高需要を支えています。

EU によるロシア産石炭の禁輸と並行して、日本など他の石炭輸入国による非公式な制裁は、ロシア産以外の高 CV 値の一般炭の市場を極度に逼迫させる一因となっています。

これは 2022 年の記録的な高値に反映されています。

欧州の主要な一般炭輸入の指標である API2 の期近物価格は 3 月上旬に 438 米ドル/t まで上昇し、その後価格はピークから下落したものの、戦前の長期的な歴史的水準を大幅に上回っています。

供給面では、オーストラリアの炭鉱地域での例年を上回る降雨により、南アフリカの物流問題同様に石炭の輸出が抑制されているほか、コロンビアの石炭は、先の鉱山閉鎖や大規模なセレジョン炭鉱につながる鉄道路線の封鎖により供給が制限されています。

世界最大の海上輸送石炭採掘企業であるグレンコアは、2023 年の世界生産量を 105 ~ 115Mt とし、2022 年の 106 ~ 114Mt のガイダンスとほぼ一致するとしており、海上輸送による高 CV 値の一般炭の供給は来年も厳しい状況が続くと思われます。

 

海上輸送石炭輸出量

Toby Hassall, Lead Analyst – Coal Market Research, Supply Chain and Commodities Research

 

IV. 農産物

ウクライナ情勢は、中東、アフリカ、そして多くの欧州・アジア諸国にとって最も重要な穀物および油糧種子の供給源である黒海地域に影響を及ぼしています。こうした混乱とウクライナの作物生産損失は、世界の穀物・油糧種子の需給に影響を及ぼしています。

その結果、農産物価格は、戦局と黒海穀物輸送の稼働に連動して変動し続けています。

ロシアのウクライナ侵攻により、2022/23 年のウクライナの作物生産量は大幅に減少しています。ウクライナの農業政策・食料省によると、2022 年には、前シーズンの 1 億 600 万トン超に対し、穀物と油糧種子作物の収穫は 6,700 万トンになる可能性があるということです。そのうちの 1,000 万トン以上の穀物は占領地にありました。

2023/24 年については、肥料価格の高騰に加え、穀物の販売や輸送が困難なため、農家は冬の穀物の作付けを 30 ~ 40% 程度減らさざるを得ない可能性があります。来春の作付けは依然として不透明であり、供給 (種子、肥料など) および黒海の穀物輸送の回復に依存しています。

黒海貿易への影響に関しては、ウクライナは穀物・油種の主要輸出国の 1 つとして、小麦、大麦、トウモロコシ、ヒマワリ油など 6,000 万トン以上を世界市場に供給する能力を持っています。

輸出の約 90% はウクライナの黒海沿岸の海港から出荷されていました。しかし、2022 年 2 月の開戦以来、ロシア海軍は港湾を封鎖していました。穀物の輸出は鉄道やトラックを使って西に輸送されるようになり、ドナウ川流域のイズメイル港やレニ港が利用されたにもかかわらず、大量の穀物が国内で足止めされ、世界市場は供給不足に陥りました。

7 月 22 日、ウクライナの黒海の 3 港に対するロシアの封鎖は、国連とトルコの仲介によるウクライナの港から穀物や食料を安全に輸送するための「黒海穀物イニシアチブ」によって解除されました。

その結果、ウクライナの穀物・油糧種子の輸出は、2022 年 8 月に 380 万トン、2022 年 9 月から 10 月に約 600 万トンと、通常の輸出ペースに近いところまで増加しました。同イニシアチブは 11 月に 120 日間延長され、今後 4か月間のウクライナの輸出が確保されました。

全体として、2022/23 年シーズンの 7 月から 11 月までのウクライナの穀物輸出量は約 1,810 万トンとなり、前年同期比で 30% 減少したことが農務省のデータで示されました。

減産により、2022/23 年のウクライナ産トウモロコシと小麦の供給が前年より 1,700 万トン近く減少することが示されています。穀物輸送と輸出の困難と合わせて、2022/23 年のウクライナ産トウモロコシと小麦の輸出は 2,340 万トンとなり、前シーズンから 2,200 万トン減少すると予測されました。

ウクライナからの供給が減少すれば、世界市場における穀物不足のリスクが高まりますが、ロシア、カナダ、オーストラリア、ブラジルでの生産増への期待が、ウクライナの供給減の影響を相殺すると見られています。

Libin Zhou, Svetlana Malysh and Anna Drewnik, Agriculture & Weather Research

 

V. 電力

ウクライナ情勢と欧州向けロシア産ガス供給の減少により、今年の欧州のガス価格は非常に高騰しました。このため、天然ガスを燃料とする火力発電所の発電限界費用が上昇しました。

8 月 25 日の金融市場では、効率 50% のガス火力発電所の 9 月期の限界費用が 667 ユーロ/MWh に上昇しました。2014 年から 2020 年までの水準は、通常 30 ~ 60 ユーロ/MWh の範囲でした。

物理的な電力市場 (前日市場) では、需要を満たすために必要な最後の限界単位によって価格が設定されます。2022 年のかなりの時間において電気はガスから作り出されていたため、これが非常に高い電気料金をもたらしています。

2022 年にガスが長時間にわたって逼迫している理由の 1 つは、水力発電と原子力発電による電力供給が例年に比べて大幅に減少していることです。

今年の欧州は干ばつに見舞われ、アルプス地方、スペイン、北欧の累積降水量は水力発電量換算で平年を 75Twh も下回りました。最も電力不足が深刻なフランスの降水量は、水力発電量換算で平年より 27Twh 少なくなりました。

加えて、原子力発電量も減少しています。

フランスでは、利用可能な原子力発電量が 10 年以上前よりも減少しました。これは主に腐食の問題と大量のメンテナンスの滞りが原因ですが、今年の暑く乾燥した夏季に冷却水が不足したことも一因です。

ドイツでは、2021 年の最終日に 4GW の原子力発電所が廃止されたため、原子力発電量は前年の約半分の水準になりました。

フランスでは原子力発電と水力発電が減少したため、近隣諸国よりも価格が上昇し、純輸入量は過去最高を記録しました。12 月 8 日、フランスは過去最高の純輸入量を記録し、ピーク時には 16.9 GW の電力の輸入を記録しました。

欧州のガス価格の高騰と供給逼迫により、ドイツは廃止が決定していた 7GW 以上の石炭・亜炭火力の稼働を維持または復帰させました。これにより、石炭と亜炭による年間発電量は 2018 年以来の高水準となりました。

10 月、ドイツは残存する 3 基の原子力発電所について、追加の燃料は調達しないものの、2023 年 4 月中旬まで運転を継続することを決定しました。

2 月には、ドイツで風力発電と太陽光発電による発電量が 35Gwh/h を記録し、月間生産量が過去最高となりました。風力発電、特にドイツの太陽光発電は急速な生産能力拡張を続けています。

電力料金の高騰により、2022 年には欧州全域で需要破壊が起きました。フランス、イタリア、英国といった国々では、2022 年後半の需要破壊は 6% に達し、ドイツに至っては 8% に達しました。

フランスの電気料金は 2022 年の大半で前年の水準を大きく上回り、8 月には月間最大値の 493 ユーロ/MWh に達しました。同月のドイツの平均は 465 ユーロ/MWh、北欧 4 か国の料金は平均で 223 ユーロ/MWh でした。

 

フランスとドイツの電気料金の比較表

フランスとドイツの電気料金の比較表

出所: リフィニティブ、2022 年 12 月 15 日時点
Ole Tom Djupskaas, Market Expert, Nordic Power, Supply Chain and Commodities Research

 

VI. 炭素

ウクライナ情勢は、欧州のエネルギー・気候政策に新たなパラダイムを生み出しました。欧州のエネルギー価格が著しい変動の中で過去最高値を更新する中、欧州の炭素市場も例外ではありませんでした。

欧州で炭素排出コストが 3 倍になった 2021 年の急騰期を経て、2022 年初頭には約 100 ユーロ/t という新記録を打ち立てました。炭素価格は乱高下し、わずか一週間で 95 ユーロ/t から 55 ユーロ/t まで下落し、その後 2021 年の3 倍近い水準となる 80 ユーロ/t 前後まで回復しました。ベンチマークとなる EUA 契約は年末に向けて 90 ユーロ/t 近くで取引されています。

しかし、炭素価格の暴落を引き起こしたものは何だったのでしょうか。またその後の回復はどうなったでしょうか。

エネルギーのマージンコールをカバーするために EUA のポジションを清算したこと、需要の混乱とエネルギー価格の高騰に対する懸念、国際投資家が欧州の資産へのエクスポージャーを最小限に抑えたことが雪だるま式に加速し、最終的に暴落を引き起こしました。

侵攻によって気候アジェンダが後回しにされ、主要な気候変動政策である欧州連合域内排出量取引制度 (EU ETS) の強化に向けて進められている協議が遅れるのではないかという当初の懸念は、根拠のないものだったと思われます。

この戦争により、欧州の指導者たちは、エネルギー安全保障とロシア産化石燃料からの独立が最優先事項であると宣言しました。彼らは、エネルギー効率、再生可能エネルギーの導入加速、温室効果ガス排出量の迅速な削減を強く要求することで、これらの優先事項の達成を目指しています。

ウクライナ情勢は、欧州におけるより持続可能なエネルギー政策の実施を加速させる可能性があります。12 月下旬、欧州議会は「Fit for 55」パッケージのための三者協議で EU ETS 改革について画期的な合意に達しました。EU ETS の野心的シナリオを強化する一方で、この制度の対象を海運、道路輸送、建物など、より多くの分野に拡大することを計画しています。

エネルギーの安定供給を確保するため、欧州は一時的に古い石炭発電所の復活に頼っています。

欧州の電力セクターの排出量は、2022 年と 2023 年に増加する可能性が高く、電力会社の排出枠需要を増加させます。一方、エネルギー価格の高騰による景気減速の懸念や、「REPowerEU」政策の財源として 200 億ユーロを調達するための排出枠の追加販売により、欧州の炭素価格には下落圧力がかかる可能性があります。

リフィニティブの炭素に関するリサーチ・チームは、2023 年の EU ETS の排出枠価格は平均 70 ユーロになると予想しています。

 

2022 年 1 月以降の欧州炭素価格  (front-Dec EUA)  の推移  (ユーロ/t) 

2022 年 1 月以降の欧州炭素価格 (期近 12 月物 EUA) の推移 (ユーロ/t)

Yan Qin, Lead Analyst, Supply Chain and Commodities Research

 

Commodities Data

リフィニティブは、炭素、農作物、金属、および天候など、コモディティに関するインサイトを提供します。

本稿は英国現地時間 2023 年 1 月 13 日に投稿された "How Ukraine transformed commodity markets in 2022" の邦訳です。内容に相違がある場合にはリフィニティブのグローバルサイトに掲載されている原文が優先します。

免責事項:© Refinitiv 2022
本文および本文の内容(以下、「本内容」)は、あくまでも一般的な情報提供を目的としたもので、筆者の本主題に係る過去の経験に基づくものであります。記載された内容はRefinitivの見解を反映するものではありません。なお、無断での複製、転送等を行わないようにお願いします。

本内容は、如何なる法域又は領域においても、投資助言(及びその他の如何なる助言)を提供するものではなく、また金融商品の売買の申し込み又はその勧誘とみなされるべきではありません。記載された意見や予測等は作成時点のものであり、Refinitivは、本内容に含まれる情報の正確性、最新性、適切性及び完全性、また本内容の利用結果について如何なる保証も行わず、本内容に起因して生じた損失や損害について一切責任を負いません。Refinitivは予告なくいつでも本内容を変更、削除する権利を留保します。