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2023 年 4 月 3 日
サステナブル・ファイナンスは2023年どう進化するのか?
INVESTMENT INSIGHTS
本稿は英国現地時間 2023 年 1 月 24 日に投稿された "How will sustainable finance evolve in 2023?" の邦訳です。
Director, Sustainable Finance, Data & Analytics, London Stock Exchange Group
Elena Philipova
LSEG は、世界の緊急課題に取り組み、グローバル経済の持続可能な成長の実現を支持・推進してきました。また、2023年も引き続き、サステナビリティと金融が永続的に融合する「サステナブル・ファイナンス (サステナブル金融) 」のアジェンダを形成するいくつかのトピックを注視しています。
では、2023 年のサステナブル・ファイナンスにとって重要な事柄とは何か? 現在と将来の業界を形成する重要な 5 つのトピックについて、考察を加えたレポートをお届けします。
本稿は、2023 年 1 月 24 日に発表した記事のローカライズ版です。
目次
サステナブル・ファイナンスにまつわる3つの基本的な見通し
I. サステナブル/ESGを取り巻く複雑さ - 一進一退する“標準化”の行方は?
II. 自然から得られる恩恵はタダではない - “不都合な議論”からもう目を逸らすことはできない
III. 脱炭素化のコスト - 将来的に不可欠なコストはどれくらいか?
IV. グリーンウォッシュ等の取り繕いは許されない - 正しくラベルを再評価し、証明できないなら言わない姿勢こそ必要
V. トランジション・ファイナンス - 脱炭素の加速化
サステナブル・ファイナンスにまつわる 3 つの基本的な見通し
- 2023 年以降のサステナブル・ファイナンスのアジェンダを形成しうるトピックは 5 つ。
- 2023 年は、各種規制、より広範な自然・気候危機への配慮、グリーンウォッシュ問題がより大きくクローズアップされる。
- 世界のサステナブル・ファイナンスの推進にとって、更新性と網羅性、信頼性の高いデータは必要不可欠なものであり続ける。
I. サステナブル/ ESG を取り巻く複雑さ - 一進一退する “標準化” の行方は?
規制や開示基準、ガイドライン、次々に発表されるイニシアチブ、使用される定義など、サステナブル・ファイナンスをとりまく現状は絶えず進化しています。
私たちは、上述のようなサステナブル・ファイナンスにおける規制等の細分化を収束させることの重要性について長く議論を続けてきましたが、今日、多くの有望な打開策が見出されるようになりました。ただし、細分化という現状課題を解決し、金融セクターがそれを受け入れてスムーズに変化を遂げるまでには、もうしばらく時間を要する可能性も指摘しないわけにはいきません。
提言: 国際サステナビリティ基準審議会 (ISSB) や米国証券取引委員会 (SEC) 、および欧州委員会のようなEUの政策立案者は、指針となる原則と指標、およびサステナビリティ開示規則に関する電子的なタグ付けの取り組みを調整する必要があると考えます。
※LSEGでは、金融業界が持続可能な成長に向けて根本的な転換をするにあたり必要とするソリューションを提供しています。それぞれのソリューションが課題解決にどのように役立つかについて、詳しくはこちらのページをご覧ください。
II. 自然から得られる恩恵はタダではない - “不都合な議論” からもう目を逸らすことはできない
世界の GDP の半分は、石油や天然ガス、食糧など自然物や自然から生み出される “資本” に依存していると考えられています。しかし、我々が獲得・利用しているこれらの資本が生み出されるまでのコストのほとんどが、財務会計やリスク管理、事業評価に反映されてはいません。また、当然ながら、今日の社会全体が直面している気候危機は、自然の力なくして解決することはできない問題です。
生物多様性とそれによる恩恵は、資本市場から長い間「得られて当然のもの」と扱われてきました。しかし、これはもはや過去の話であり、カナダ・モントリオールで開催された「国連生物多様性条約 第15回締約国会議 (COP15) 」での国際的な合意によって、このトピックはサステナブル・ファイナンスの注目の的になりつつあります。
私は、自然関連のKPIと開示要件の定義が加速するに従い、データ入手のニーズが高まると予想しています。また、「Green economy opportunities: the devil is in the data (英語) 」でも触れた通り、企業の環境に配慮した製品やサービスを評価するための詳細で一貫した信頼できるデータが不足している現状を解決すべく、環境投資のポートフォリオを成功させるための高品質な公開データと情報の不足を補う専門家の分析の両方を組み合わせた詳細なデータへのニーズが今以上に高まり、それを利用することが広く一般化するとも見通しています。
提言: 2023 年 9 月に予定されている 「自然関連財務情報開示タスクフォース (TNFD) 」の最終勧告、および TNFD との ISSB の連携、および保険会社との協力による自然関連のデータにまつわる課題の解決が加速すると予想されます。
III. 脱炭素化のコスト - 将来的に不可欠なコストはどれくらいか?
現在、多くの企業は脱炭素化のためのコストについてほとんど「未知のものである」と感じていることでしょう。ネットゼロの目標を達成するために多くの企業が、そのコストを見通して定量化することがまだできていないと推察します。
2023 年は、エネルギーコストなどの課題が依然として影響するため、ビジネスの脱炭素化のための具体的な取り組みやコストの設定が最重要課題になると考えられます。
提言: 全体像を把握するために、短期的・長期的にコストと利益を組み合わせる必要があると言えます。脱炭素にかかるコストは、将来的に必要不可欠なものです。
IV. グリーンウォッシュ等の取り繕いは許されない - 正しくラベルを再評価し、証明できないなら言わない姿勢こそ必要
ESG を重視し、これを推進していると対外的に発表する企業が増える一方、その内容には正確性が求められ、商品・サービスの説明やPR活動等に用いる発表に疑義がある場合の政治的リスクや訴訟リスクが高まるようにもなりました。企業にとって、「ESG に沿っていると発表するその内容が正しいこと」を担保する、あるいは、実態を適正化することは喫緊の課題です。
金融業界を例に挙げて課題を詳しく見てみましょう。
EU の SFDR (サステナブルファイナンス開示規則) に則って「サステナブルな投資目的を掲げる第9条商品」「環境・社会的な特性を促進する第8条商品」、第 9 条商品や第8条商品に該当しない「第 6 条商品」に分類することや、運用ポートフォリオのカーボンニュートラルにコミットするアセットオーナーらが主導する「Net Zero Asset Owner Alliance (NZAOA) 」の会員になること、投資戦略の根幹に ESG を据えることなど、業界内では明確に定義されていない非常に曖昧なラインの上を歩むような状態が続いており、ESG に真摯に向き合う必要があると同時に、思わぬリスクをはらむ場面に遭遇しやすいビジネス環境になっていると考えられます。
提言: グローバルに通用する定義や用語の必要性が高まり、あらゆる場面で透明性が求められます。
V. トランジション・ファイナンス - 脱炭素の加速化
世界が自然からの恩恵にかかるコストと気候危機対策に必要なコストを完全に理解しようと取り組む中で、脱炭素化とそれに向けての強固な移行計画を活性化させるためには大量の移行資金が必要であると明らかになってきました。
発行体が事前に設定したサステナビリティ/ ESG 目標の達成状況に応じて財務的・構造的に変化する可能性がある「サステナビリティリンク債」や、低炭素経済社会への移行 (トランジション) のために資金を活用する「トランジションボンド」は、EU や中国で大きく成長しており、トランジションタクソノミーの導入の必要性に関する議論も再燃しています。
提言: データの標準化を可能にする開示テンプレートに焦点を当てた明確な移行計画ガイダンスを推進する必要があり、そのような機運が盛り上がると見通されます。
LSEG では、金融とサステナビリティの永続的な融合のみが世界の緊急課題に効果的に取り組み、持続可能な成長を戦略的に実現することにつながると考えています。LSEG が持続可能な成長のためにどのような支援をしているか、詳しくはこちらをご覧ください。
本稿は英国現地時間 2023 年 1 月 24 日に投稿された "How will sustainable finance evolve in 2023?" の邦訳です。
著者プロフィール
Elena Philipova (エレーナ・フィリポワ)
ロンドン証券取引所グループ サステイナブル・ファイナンス、データ&アナリティクス担当ディレクター
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