2021年6月22日

ピッツバーグ・サミットが投じた一石 : 最終章 一筋の光 LIBOR Transition 金利指標改革 

ピッツバーグ・サミットが投じた一石(最終章: 一筋の光 - LIBOR Transition 金利指標改革 -

リフィニティブ・ジャパン株式会社 

事業開発部 部長

鈴木慎之

 

「ピッツバーグ・サミットが投じた一石」というテーマの下、連載シリーズとしていくつかの金融規制に対するの実務レベルでの課題やアプローチの仕方をこれまで紹介してきた。特に2000年前半から肥大化し始めた店頭デリバティブ市場がもたらした一部市場の不透明感。これが市場分断につながり、正しい評価額が判断しづらくなる中での、アンワインドが難しいポジションの増大。やがて、肥大化したポジションに耐えきれずに亀裂が入り始め、これが瞬く間に市場全体に広がり、大混乱が発生した。これがパリバショックの発端となり、やがてリーマンショックへと発展したのである。

バーゼル銀行監督委員会(BCBS)を始めとする金融市場リスクの監視当局が業界を巻き込みながら検証した結果、銀行の自己資本比率のより一層の厳格化を市場リスク、流動性リスク、クレジットリスク等の多角的要因を総合的に取り入れて測り直すべきだという提唱からバーゼル3が導入されることになった。これにより国際的な金融サービスを行うシステムに重要な金融機関は、より頑強な、より柔軟な経営体制の下、金融国際化の道をさらに進むことで、多大な社会貢献をすることが今後大きく期待される。

この連載シリーズで取り上げた一連の期間(リーマンショック後の金融規制)で、バーゼル規制とは少し違うが、やはりリスク管理の観点から外すことができないロンドン銀行間取引金利(LIBOR)改革についても触れた上で、本シリーズに一旦終止符を打ちたい。

LIBOR改革の発端は、「LIBOR不正操作」事件であることは周知のことだ。これを語る上で、そもそもLIBORとは何かということから話を始める必要があるかと思うが、スペース上の制約からなかなか難しいようである。そこで何か良い文献はないかと探した矢先、ちょうど今しがた (6月14日時点)、2021年6月11日付で米国証券取引等委員会のゲイリー・ゲンスラー議長のLIBOR改革に関する見解(英語) が公表されたのでここから抜粋し、和訳を試みたい。

「1970年代初頭、銀行が変動金利でローンを組むためにはどのようなレートを参照すれば良いかという議論をしたことがLIBOR誕生に寄与している。1980年代までに、彼らは、ロンドンでの銀行間で互いに貸し付けた無担保金利を参照レートとして利用する合意形成をした。これがLIBOR (London Interbank Offered Rate)の誕生である。LIBORは長きにわたり非常に人気があり、世界中の数百兆ドルの金融取引契約に組み込まれた。事業者ローンや一般貸し付け、住宅ローンやデリバティブ等広範な金融取引がLIBOR金利を基礎とした組成がなされている。しかし、これには大きな問題があった。1970年から1980年代にかけて合意形成された銀行間無担保貸し付けは、実市場での取引実績がほとんどなかったのである。無担保でお金を貸し借りする人間などいなかったのである。世界中の金融取引契約は、実は、実態のない虚像を参照しながら執り行われていたのである。逆ピラミット型のなにかとてつもなく不安定な構造である。この参照レートは、取引実態がない故に、レート管理責任者が独自の判断のもとでレートを弾き出される傾向があった。また、これ故、操作(相場操縦的行為)が容易にできてしまった。」

レート決定に関する仕組みの欠点をついた一部トレーダーによるLIBOR不正操作(主にレート操作とカルテル)の発覚で市場に激震が走った。ここから世界の金融当局は、脱LIBORへの茨の道を歩むことになるのである。ゲンスラーSEC議長のコメントにもあるように、現在数百兆ドル(日本の国家予算の数百倍程度)の金融取引契約がLIBORを参照レートとして組成されている。こうした現実を鑑みると、LIBORに代わる新しい透明性のある参照金利を2021年末に稼働させるという、未だ例のない作業が今世界中の金融機関にのしかかっている。

ここ数年、先進主要国はそれぞれの通貨におけるLIBOR代替をどのように考え、実現させるかを決定するためのワーキンググループ等を活発に行い、各通貨とも代替金利として取引実態が存在する無担保翌日物レート(米国等は有担保翌日物)を参照することを決定した。

しかしながら、LIBORと性格の異なる代替金利を参照することは、金融取引契約を維持する上で、多くの作業を取引当事者(主に金融機関)に強いることになる。代表的な作業内容は以下のように挙げられる。

     1,  2021年以降継続する取引契約に於けるフォールバックレートの取り扱い
             2,  1についてのスプレッド調整値
             3,  代替レートターム物の扱い
             4,  金利前决め後決めの扱い
             5,  その他

いずれも、LIBORを代替金利に置き換えた場合、現在IBORで利用されている金利参照様式をどのようにするのかを決める重要な作業となる。金利様式とは即ち、

            1,  LIBORと代替金利のスプレッドをどのように埋め合わせて、参照金利が代替金利に移った後もLIBOR金利と同等性を持たせるのか?(フォールバックレート)
            2, LIBORでの前决め期間金利に対し、この金利決定タイミングを代替金利でも前决め方式で対応するのか、あるいは後決め方式にするのか?(基本的に翌日物金利が日次複利により期間実行金利を計算するので、後決め金利が適用される。この金利で前决め金利を利用する場合翌日物金利のターム物期間構造が必要になる。)

この金利様式で、最近よく金融機関の方々と意見交換する機会のある「後決め」と「前决め」金利について、もう少し踏み込んでみたい。変動金利ローンや利付変動債の様に、変動金利にリンクした金融商品は、定期的に実勢金利に近づけるために適用金利が見直される。一般的には半年に一回見直されることが多いと思うが、この期間も当該金融取引契約に基づくこととなる。LIBORを参照金利とした適用金利はいわゆる「前决め」金利方式で、例えばLIBOR参照の変動金利ローンの場合、「今日から向こう6カ月間の金利はx%とする」と、予め決めることになっている。これはLIBORでは例えば6カ月間金利で今日から6カ月運用する際の実効金利、1年運用するときの実効金利等の金利期間構造(ターム物金利)がしっかり提示される仕組みがあるから実現できるのである。

これに対し翌日物金利は、日々変動する金利で複利計算をしながら期間中実効金利を計算していく仕組みのため、基本的には実効金利による「後決め」方式になる。したがって特定期間の実効金利が予め決まる「前決め」ではなく、特定期間の終盤まで期間実効金利が決まらない「後決め」の場合、ローン管理をする上で、キャッシュフロー管理や元本、残高管理の業務フローの変更を伴うため、銀行や証券会社でローン組成から維持管理をさせる方々には頭痛の種になるだろう。また「後決め」方式と一口に言っても、この方式にも何種類かの実効金利計算方式があるから頭痛の種は増える一方だと察する。

以下、今年4月に開催した「ポストLIBOR TONA TSRの概要 TOKYO SWAP RATE (TSR)の今後」と題したウェビナーで解説した際に用いた「後決め」方式の各実効金利算出方法を共有したい。

出所 : 2021年4月21日開催のREFINITIV Webinar 「ポストLIBOR TONA TSR概要 Tokyo Swap Rateの今後」で使用した資料から抜粋

また、各国・地域の中央銀行等が代替金利によるターム物金利の提示を検討しており、LIBORと同じ「前决め」金利適用を引き続き適用するニーズも高まっている。英国は既に代替金利のターム物金利を既に正式に提示しており、日本もこれに続いている。米国もターム物金利の計画を正式に発表しているので今後急速に代替金利での金融取引契約の土台が整い、移行の進行に拍車がかかるだろう。

人が集い、契約が執り行われてモノが動く。この営みを人々は昔から繰り返すことで経済活動を支えてきた。この中で契約当事者間あるいは関係者に不利益が生じたり、予期せぬ事態に陥る経験を糧に法規制が整備されてきた。複雑化する金融商品や契約形態も様々な問題を引き起こし、その度に法規制整備がされ健全な経済活動が維持されている。今後も金融商品は様々な情勢を取り込みながら変革していくだろう。その特性によっては、新たな収益モデルやリスクモデルが考案され続けると思われる。こうした動きを間近に接する立場にある者として、今後も金融規制、リスク管理に対し、真摯な気持ちで接していくことが使命だと思いながら、このシリーズの締めくくりとさせていただく。まったく拙い内容であったが、これまでお付き合いしていたいた方々にはこの場をお借りして心よりお礼申し上げたい。

今後は、異なる趣旨に関するシリーズを連載することを考えているので、その際にはまたお付き合いいただければと存じます。

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