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2023 年 9 月 4 日
石油業界の動向: 草の根的な取り組みが世界市場に及ぼす影響
本稿は英国現地時間 2023 年 6月 22 日に投稿された "Petroleum Refining: A snapshot of global grassroots initiatives" の邦訳です。
Hillary Stevenson
Senior Director of Energy Market Intelligence at IIR Energy
James Mitchell
Commodity Thought Leader, Refinitiv
業界向け情報提供企業 IIR エネルギーとリフィニティブは、共同で、石油業界の現在を俯瞰するブログ記事を作成・公開しています。本稿では、そのシリーズ記事の中から、世界中で予想される産出量の変化について議論した上で、それが市場力学に及ぼす潜在的な影響がどのようなものであるかを考察し、お伝えします。
I. 今日の世界的な石油業界の動向と注目点
- 世界の石油業界には多くの課題がある一方、供給源とエンドユーザーの旺盛な需要を背景に、草の根開発を行う絶好の機会が到来しています。
- 注目に値する具体的な新規製油所プロジェクトには、ダンゴテ・グループによるナイジェリアの製油所、メキシコのオルメカ (ドスボカス) 製油所、クウェート総合石油産業会社 (KIPIC) によるアルズール製油所などが挙げられます。
- 予想される供給量の変化が市場動向に及ぼす影響を完全に理解するには、正確で信頼性の高い最新のデータと分析を常に確認できる環境を整える必要があります。
II. 予測される石油供給量はどの程度のものか?
コロナ禍以降の世界的な石油需要の高まりに応えるため、石油業界は大きな使命を負っています。同時に、世界の原油供給情勢は非常に多くの課題に直面しているところでもあります。
そうした中、米国やサウジアラビア、ロシアや中国といった世界最大級の産油国または石油精製国の後塵を拝してきた国々における精製能力向上に注目が集まるようになってきました。
IIR エネルギー社でエネルギー市場インテリジェンス担当シニアディレクターとして活躍する Hillary Stevenson 氏は、同社が、「アフリカやアジア、南米で現在建設中の 20 以上の製油所プロジェクトを追跡している」と述べ、これらのプロジェクトを分析した結果、「日量およそ 140 万バレルがすでに生産されようとしており、早ければ 2025 年には日量 300 万バレル近くの生産能力を稼働させることもできるようになる」と見通していることを明らかにしました。
Stevenson 氏はさらに、2023 年こそ石油業界の変化を見定めるのに重要な年であるとし、「ダンゴテ・グループがナイジェリアのラゴス州レッキ地区に落成させたダンゴテ精製所やアルズール精製所を含むいくつかの待望のプロジェクトの操業が予定されている」と述べました。
また、「いくつか例を挙げると、アンゴラのカルバラ製油所は 2023 年に完成する予定であり、これにより世界の精製能力は 2019 年レベルにまで戻るだろう」との見通しも語っています。
なお、上図における 2025 年以降の生産能力は最終投資決定 (FID) の対象となり、遅延やキャンセルの影響を受ける可能性もあると考えられます。
III. 3 つの注目すべき製油所プロジェクト
今日注目に値すると考えられるプロジェクトには次のようなものがあります。
- ナイジェリア・ラゴス州レッキ地区に落成したダンゴテ・グループによるダンゴテ製油所は、国内の石油精製製品の輸入量を減らすことを目的に設立されました。
同製油所はアフリカ最大級のもので、これによって精製能力は日量 324 万バレルに増加すると見込まれます。特に、この製油所には日量 65 万バレルの原油蒸留装置が 1 基設置されており、運用が開始されれば世界最大級のものになると考えられています。
Stevenson 氏は、「市場はこの新興企業のプロジェクト、とりわけ『どれだけの原油を生産・精製できるか』について非常に注目している」と指摘します。私たちの調査によると、下流のユニットが稼働するまでプラントの稼働率は 50% 程度になると予想されており、それは 2025 年まで続く可能性もあります。
- メキシコ・タバスコ州にあるオルメカ (旧ドスボカス) 製油所は、地元で採掘された原油を日量 34 万バレル精製し、国内燃料価格高騰の歯止めを目指すことを目的としたプロジェクトです。しかし、このプロジェクトは野心的なものであり、これまでに多くの課題を経験してきました。
リフィニティブの米州石油アナリスト責任者、Jim Mitchel 氏は、「このプロジェクトは立ち上げ当初から非常に政治的な影響を受けており、盗難からメンテナンスの問題まで、さまざまな影響を受けてきました。これまでの課題に加え、さらに物流の課題も依然として存在しており、地元の埠頭もパイプライン等のインフラも効率的な物流を容易に促すことができないでしょう」とコメントしています。
- クウェート統合石油産業会社 (KIPIC) のアルズール製油所は、日量 61 万 5,000 バレルを見込み、2016 年に建設プロジェクトが開始されました。以降、数度の遅れが生じており、計画されていた 3 基のうち 2 基が稼働しましたが、運用上の問題も発生しています。
IIR エナジーによると、これらの事情により、今年後半に予定されていた 3 本目の原油列車の試運転が遅れたとのこと。一方で、この世界クラスのプロジェクトは、経済性に基づいて原料を切り替えることができるため、操業リスクと価格リスクを軽減できるとされています。
IV. 生産量が変わることでどのような潜在的な影響が生じるか?
Mitchel 氏は、これらの開発が世界市場とフローに及ぼす潜在的な影響について次のようにコメントしています。
「ナイジェリア、メキシコ、クウェートにおける精製所プロジェクトの概要を上記のように確認したが、これらはいずれも世界の競争の場に新たなインパクトをもたらす準備ができていると捉えていいだろう。これらの精製能力は効率の悪い他の製油所を廃業に追い込み、この分野での競争を激化させるという点で波及効果をもたらすと考えられる」
このような変化に際し、業界関係者には、生産量やその他の変化の影響を完全に理解するための正確で信頼性の高い多くの最新データとインサイトが不可欠です。
そうした状況を受け、関係者が業界のより全体的な視点を持てるよう、リフィニティブ と IIR Energy は、詳細な業務知識と正確で信頼できるデータの強力な融合を実現しました。リフィニティブ のプラットフォームで利用可能な IIR の PetroCast Live は、世界の精製オペレーションに関する包括的なリアルタイムデータを提供することで、利用者が原油と精製品の価格をより正確に予測し、より適切な情報に基づく意思決定を行えるよう支援いたします。
本稿は英国現地時間 2023 年 6 月 22 日に投稿された "Petroleum Refining: A snapshot of global grassroots initiatives" の邦訳です。
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