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2023 年 8 月 21 日
AI はアナリストのゲームチェンジャーとなるか?
~ 自然言語処理 (NLP) による、テキスト分析の新たな地平 ~
本稿は英国現地時間 2023 年 7 月 27 日に投稿された "Reshaping text analytics – is AI a game changer for analysts?" の邦訳です。
Mihail Dungarov, CFA
Text Analytics, Product Lead, LSEG Analytics
Martin Dailerian
Head of LSEG Investment and Wealth Solutions
人工知能 (AI) の中核的な技術の一つ「自然言語処理」(NLP) は、近年、長足の進歩をとげました。この記事では、ウェルス・アドバイザーを含めたアナリストが行うリサーチやポートフォリオ管理といった業務の生産性を、NLP が劇的に高め得ることを紹介します。あわせて、このテクノロジーの効果的な活用法を見ていきます。
I. AI と自然言語処理 (NLP) のめざましい発展
AI は、今や私たちの生活に欠かせない存在となり、人びとに数々の新しい機会と可能性をもたらしています。そして、このテクノロジーはなおも進歩し続け、ヒトの知能をも凌駕し始めています。今後、人類の創造力と生産性は、AI によって新たな地平がもたらされるでしょう。
今日、アナリストは大量のデジタルデータを利用できるようになり、意思決定に関わる重要情報の検索が不可欠な業務となっています。一般的な投資の専門家は、投資対象の株式、債券、セクター、国といった情報をくまなく調べ、より確かな投資材料を見つけようと注力します。したがってデータをより効率的に収集・精査できる者が、この“競争”で勝利を収めることは、必然といえましょう。
AI のプラットフォームは、ますます多くの業界で分析や意思決定を担い、複雑なワークフローを解決するための主役になると期待されています。ある調査によると [※]、 NLP 市場は今後の数年間で飛躍的に成長し、投資総額は 450 億ドル ~ 910 億ドル (約 5 兆 9,500 億円 ~ 10 兆 8,000 億円) に、そして CAGR (年平均成長率) は約 20% ~ 27% に達すると予想されます。
Chat GPTがもたらしたイノベーション
Chat GPTは、テクノロジー業界をはじめ世界中の人々の想像力をかきたてたのとあわせ、NLP の新次元の能力を世に示しました。ユーザーの求めに対し、蓄積された膨大なデータを活用しながら詳細に応答するこの最新イノベーションは、従来であれば複数の NLP モデルで行っていた作業を一手に担います。とりわけ複雑な質問を理解し、自然で違和感のない文章で会話が行なえることは、特筆すべき機能です。
個々のタスクに対応するだけでなく、たとえば連動した複数のタスクを自律的に行う「AutoGPT」といったツールの出現で、複雑な業務を任せられる可能性も広がっています。今後、AI プラットフォームはさらに進化し、将来的には多様なマルチタスクを賢く管理・調整できるようになるでしょう。
アナリストにとって、これらは非常に頼もしい機能です。ただし、はじめは “多すぎる情報” と “パターンの抽出の難しさ” に直面することにもなるでしょう。 Chat GPT のような AI ツールで、最旬のニュースがピンポイントで読み込まれるようにするには、現状ではそれを手助けするある種のスキルと前提知識が求められるからです。
同じく、的をしぼった断片的なテキストであれば容易に分析できる一方で、膨大な履歴データとの比較や、その中から外れ値を見つけるようなタスクにも苦労がともなうでしょう。このように、NLP と大規模言語モデル (LLM) を通したテキストの体系的な評価に際しては、いくつかの課題が見受けられます。その解決にあたっては、以下のデータサイエンスおよびツールが、解決の糸口になるでしょう。
- 耐障害性と再現性のあるデータパイプライン (障害の検出)
- エンティティ・リンクツール
- バックテスト・フレームワーク
- スケーラブルなコンピューティング
- MLOpsとDevOpsのフレームワーク
II. 膨大な情報ソースの精査を効率的に行う
従来、アナリストは情報収集にあたり、企業レポートやニュース記事、その他の情報ソースを読むことに、相当な時間を費やしてきました。ロイターは毎日約 8,000 本のニュース記事を配信しており、そのプラットフォームには 30 万本以上のニュース記事が集約されているため、関連性の高い記事を特定するのは困難です。
記事から必要情報をすばやく抽出する
NLP 技術を使うと、記事が目的の企業に関するものかどうか、M&A の動きや噂をカバーしているかなどを判断できます。10 年以上さかのぼったニュース履歴を参照すれば、噂などのトピックが持ち上がってから、実際に株価に動きが出るまでのリードタイムを特定できるはずです。さらには、より多くの取引データと組み合わせることで、憶測との相関関係や、M&A がもたらす株価への長期的影響も見いだせます。
また以下のように、対象の企業にとってタイムリーなテーマを設けることで、関連コンテンツの把握にかかる時間を大幅に短縮できます。
トレンドの特定 - マイクロソフトに関するトレンドトピック
記事群をすみやかにフィルタリングする
NLP を使って、膨大な量の情報ソースをすばやくフィルタリングすることでも、アナリストのパフォーマンスを飛躍的に高められます。記事には適切なトピックが自動でわり当てられ、アナリストは必要な記事のみを抽出できるようになるのです。
たとえば、ESG アナリストが再生可能エネルギーへの投資を検討している場合、トピックのニュアンスの正確性が重要になります。たとえば「風力発電所」「規制」「物理的リスク」といったトピックにより、何十万もの記事がほんのひと握りに絞り込まれ、アナリストは迅速にそれらを精査できるようになります。
くわえて、センチメント分析と事実抽出によって、特定の記述をさらにフィルタリングできます。たとえば、「カーボンオフセットの具体的な数字」、「その地域や国での同条件の風力発電所との比較」などです。これらの情報により、そのプロジェクトに投資すべきかどうかの判断スピードを、大幅に上げられるでしょう。
SNSなどの非体系化データから情報を抽出
NLP を活用すれば、ソーシャルメディアやニュース記事、オンラインカンファレンスなどの体系化されていないデータソースからも有力情報を抽出できます。こうした情報は、対象企業の新たなトレンドや動向の発見をもたらし、より良い投資判断の貴重な材料となるはずです。
高い「要約」と「翻訳」の能力を活かす
もう一つ、NLP の能力で特筆すべきなのが、要約と翻訳です。発信元との適切な法的合意があることが前提にはなりますが、投資の専門家は電話や電子メール、ニュースの要約版をレビューすることで、利益を得られます。また翻訳は、特定の地域での調査内容を、他の複数の地域で利用するための強力なツールとなります。
III. ツールと組み合せ、NLPの能力を拡張する
では、アナリストが NLP (自然言語処理) 技術を業務にどう活かせばいいかを、もう一歩具体的に見ていきましょう。
AIのクラスタリング・アルゴリズムと組み合わせる
NLP によって抽出されたデータは、平均法や DBSCAN といった、AI のクラスタリング・アルゴリズムとかけ合わせられます。こうしたクラスタリング・アルゴリズムに、大規模言語モデルによる文脈理解が組み合わさることで、たとえば GICS をはじめとする関連性のないセクターやグループとの相関関係なども発見できるようになります。
NLP由来のラベルを活用する
アナリストにとってとくに有益な情報となるのが、アナリストと対象企業の経営陣の双方が、前向きに捉えているトピックです。下の図のように、「将来の見通し」に関する記述や、「肯定的/否定的/反対」といった NLP 由来のラベルを活用することで、確認するテキスト量を大幅に減らせます。下の割合は、6 カ月分の決算報告の記録を反映したものです。
株価に影響を及ぼすパターンや傾向を抽出する
NLP 技術がアナリストに有益となるもう一つのプロセスが、取引きの “アイデア出し” です。NLP であれば、人間にはすぐにはわからないようなパターンや傾向を、特定できるからです。
その一例が、SNS やニュースにおいて、言及が急増しているケースです。こうしたケースでは、高品質の企業リンクツールと、トピックの“曖昧性”を回避する機能が必要となります。たとえば「ETH」 は、暗号通貨のイーサリアムを指すこともあれば、エチオピアという国、あるいはスイス連邦工科大学チューリッヒを指す場合もあります。
さらには NLP を使えば、過去の市場データの分析を通しても、市場を動かす可能性があるパターンや傾向を特定することが可能です。自力で追跡するには記事数が多すぎるだけに、外れ値を自動ではじきだすアプローチが、このタスクの肝となります。
顧客の声を理解するタスクを自動化する
NLP ツールによって、顧客の声を理解するための多くのタスクも、自動化できます。AI が顧客の投資成果に寄与することは明らかで、そうした点が、NLP ツールが多くの組織で推奨されている大きな理由です。当社においてもお客様に対する支援を最善のものとするために、お客様やリサーチャーと積極的に対話しながら、NLP ツールの活用法を開拓しています。
アラートを活用して主体的に運用する
NLP がもたらす恩恵は、ファンダメンタル投資とクオンツ運用のどちらでも享受できます。いずれの場合でもポイントになるのが、対話型の運用だけでなく、アラートを活用しての主体的な運用ができる点です。アラートは、企業のセンチメントの変化から、セクター変化の予測まで、さまざまな文脈を対象にできます。通常、こうした高度なアクションを行う際には、複数のAI技術が組み合わせられることが一般的です。
IV. 株価に決定的な影響を与えたニュース & ツイート
- 2023 年 1 月 12 日、ブラジルのアメリカナス社のセルジオ・リアル最高経営責任者 (CEO) は、200 億レアルに及ぶ "会計上の矛盾 “を発表した後、突如辞任。その後、株価は以下のように急落した。
出典: LSEG news and price data, May 2023
このように、その企業に関連するニュースやツイートが、株価に大きなインパクトを与えるケースがあります。NLP を活用すれば、そうした類の情報を効率的に抽出することも可能です。以下、ニュースやツイートが株価に重要なインパクトを与えた例を、いくつか挙げます。
著名アカウントによるツイートのインパクト
- 2016 年 1 月 27 日、アメリカの俳優、オプラ・ウィンフリー氏は減量に成功したことをツイートし、減量プログラムのウェイトウォッチャーズを強く支持。同社の株価は約 20% 上昇した。
- 2017 年 4 月 13 日、空売り筋のマーク・コホデス氏がツイッターでエクイタブル・グループに対する否定的な意見を共有し、カナダの規制当局に同社を調査するよう促した。同社の株価は、その後の 2 週間で、40% 以上も下落した。
- 2017 年 4 月 20 日、カンザス州の地元記者、ティム・フレンチャー氏が、ウェスター・エナジーとグレートプレーンズ・エナジーの合併に影響を与えた裁判についてツイート。ウェスター・エナジーの株価は、取引終了後、4.5% 下落した。
重大ニュースによるインパクト
- 2022 年 2 月 22 日から 3 月 8 日にかけ、ドイツの電力会社・ウニパー SE は、ロシアからの輸入品と、ロシアにある多数のエネルギープラントに対するエクスポージャーの大きさから、株価が 54% 下落した。
- 2022 年 11 月 1 日、イギリスの映画館運営会社・シネワールドが、破産法申請に関する地主や債務者との和解が成立して借り入れが可能になったとのニュースを受け、株価が約 170% も急上昇した。
NLP を通してウェルス・マネジメントにイノベーションを
当記事では、NLP を通じてリサーチチームやポートフォリオチームのパフォーマンスを大幅に強化する方法を、紹介しました。当社は NLP 技術によって、ウェルス・マネジメントの分野にイノベーションをもたらし続けられること、そしてソリューションを多くのお客様へご提供できることに、大きな喜びを感じています。
本稿は英国現地時間 2023 年 7 月 27 日に投稿された "Reshaping text analytics – is AI a game changer for analysts?" の邦訳です。
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