2020年11月24日

ピッツバーグ・サミットが投じた 一石 : 序章 再出発

Blog  20201124  G20 pittsburgh summit

リフィニティブ・ジャパン株式会社 

事業開発部 部長

鈴木慎之

 

2009年に米ピッツバーグで開催された主要20カ国・地域(G20)首脳会談。市場参加者にとってこのG20ピッツバーグ・サミットが1つの節目となったのではなかろうか。2008年秋に破綻したリーマン・ブラザーズ、その前から発生していたクレジット・クランチ(信用収縮)による流動性枯渇。

ピッツバーグ・サミットとは?
G20サミットは正式名称「金融・世界経済に関する首脳会合」とされている。
サミットは1年に一回開催され、直近の経済、財務的な課題に対し、G20が足並みを揃えてどういった施策を取るべきなのかを議論し、合意を取ることを目的とする国際首脳会合である。このサミットの歴史は浅く、2008年11月のワシントンDC・サミットがG20サミットの幕開けとなる。

まさにリーマン・ショックによる世界恐慌の最中に幕開けとなったのである。開催は基本的に1年に一回と先に述べたが、2008年から2009年にかけては例外の期間で、2008年11月にワシントンDC、翌2009年4月にロンドン、そして同年9月にピッツバーグと短期間で3回も開催された異例の期間であった。

当然のことながら、リーマン・ショックを発端として立ちいかなくなった金融システムをどのように復旧、強化してゆくのかが大きな議論のテーマであった。そして、ワシントンDC・サミットでは、金融規制、監督に関して国際的な足並みを揃える合意を行い、次のロンドン・サミットでは金融規制、監督の範囲を広げる合意を行い、そしてピッツバーグ・サミットでは、具体的な金融規制の骨子を策定していく合意がなされた。この矢継ぎ早の3回のG20サミットで、現在ある国際金融規制の方向性が定められたということになる。

私自身、当時のデリバティブ取引従事者として、出口の見えない暗黒の日々を送っていたことが生々しく思い起こされる。手持ち資産の値付けが出来ない恐ろしさを身をもって体験した方々も数多くいるのではないだろうか。

ピッツバーグ・サミットは、そのような状況がくすぶる中で開催された最初のG20サミットであった。主たるテーマは当然のことながら混沌とする金融市場を取り巻く環境をどのように打開して指針を打ち出すかににかなりの時間を要することとなった。そしてこのサミットでは、当時の混沌からのブレークスルーを見いだすために4つの声明が発表された。

1. 全ての標準的店頭デリバティブ取引は、取引所ないし電子取引プラットフォーム上で行われるべきである。
2. 全ての標準的店頭デリバティブ取引は、中央清算機関で清算されるべきである。
3. 店頭デリバティブ取引は、公的機関が運営する取引レポジトリに記録されるべきである。
4. 非中央清算店頭デリバティブ保有には、より高い自己資本賦課を求めるべきである。

首脳声明 ピッツバーグ・サミット 本文「国際金融規制体制の強化」13条第3項目 (外務省公表の声明から要約)

この声明が出される前段として、以下のような前文条項が挙げられた。

前文16条: 「銀行およびその他金融機関に対する規制体系が危機へと導いた過度な行動の抑制を確実にすること。無謀な行動と責任の欠如が危機へと導いたところでは、我々は(G20首脳)は、通常の銀行業務に回帰することを許さない。」
前文17条: 「我々(G20首脳)は、資本基準を上げ、過度なリスク・テイクへと導く報酬慣行を終了させることを目的とした強力な国際的な報酬基準を実施し、店頭デリバティブ市場を改善し、大規模な世界的金融機関が自らとるリスクへの責任を有するためのより強力な手段を創出するために共に行動することにコミットした。大規模な世界的金融機関のための基準は、当該機関の破たんのコストに見合ったものであるべきである。これらすべての改革について、我々は自分たちのために厳格かつ精密な予定表を策定した。」

これからもうかがえるように、実務級協議のみならず、首脳級協議でも、金融危機に対する深い議論がなされたようだ。

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首脳サミットで1つのテーマについてこれだけ具体的な声明が出されたことはあまりなかったと記憶している。このサミットからその後、様々な金融規制の策定がなされるのだが、全てここで発表された4つの声明が礎となっていることは容易に想像できよう。

ピッツバーグ・サミットを機に、従来の市場リスクに加え、流動性リスク、カウンターパーティ・リスク管理の重要性が広く認知されることとなり、これらがバーゼル銀行監督委員会(BCBS)による流動性リスク規制(LCR/NSFR)やカウンターパーティ・クレジットリスク規制 、そしてBCBSと証券監督者国際機構(IOSCO)による非中央清算店頭デリバティブ当初証拠金規制に続くのである。

そしてなにより市場リスクにおいても、より市場センシティビティ重視のリスク計測手法を適用した自己資本算定に国際金融機関が取り組むこととなる。2008年前後に端を発した金融危機が、様々な議論と変遷を経て、市場リスク、流動性リスク、そしてカウンターパーティ・クレジットリスクが三位一体となった総合的リスク管理体制に大きく舵を切り直すことを国際金融機関に課すことになったのである。

今後はいくつかのシリーズに分けて個々の規制を取り上げ、深掘りしていきたい。

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