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2023 年 7 月 11 日
ロングオンリー・ファンドが求める取引システムとは
本稿は英国現地時間 2023 年 5 月 19 日に投稿された "What do long-only funds look for in a trading system?" の邦訳です。
Chris Jenkins
Managing Director, TORA
バイサイドが成長を続けるにつれ、取引活動を管理するテクノロジーへの依存度も高まっています。バイサイドのうち、ロングオンリーのセクションにも注目する必要があります。そうしたセクションも、ニーズに対応するために新たなテクノロジーやベンダーを求めているからです。
I. SUMMARY
- バイサイドの運用会社の新たなテクノロジーへの依存度は高まり続けている
- ロングオンリー・ファンドには、他のタイプのファンドとは異なる取引システムの要件がある
- ロングオンリーのファンド・マネージャーの間でアルゴリズム取引の使用が増加している
「バイサイド」という言葉は一般的な意味でよく使われますが、バイサイドの運用会社は形態も規模もさまざまです。システム・トレード戦略を実行するクオンツからなる少人数のチームから、運用資産総額が何兆米ドルにものぼる多国籍の資産運用会社まで、非常に多岐にわたります。しかしこれらの運用会社に共通するのは、取引活動を管理するためのテクノロジーへの依存度が高まっていることです。
先日のブログ (英語) では、バイサイドの中でもヘッジファンドに焦点を当て、ヘッジファンドの新規設立時、さまざまな資産クラスにおける多様な戦略運用時、ポストトレード・プロセスの管理時、API を使用したシステム・トレードやクオンツ・トレードの執行時など、ヘッジファンドが直面する課題と機会にトレーディング・テクノロジーがどのように対処きるかを見てきました。
本ブログでは、市場のうちロングオンリーの分野について考察します。この分野では、取引システムの要件が他分野と著しく異なる可能性がありますが、取引システムの観点から、その差異がもたらす影響に焦点を当てます。次回のブログでは、ロングオンリー・ファンドが、注文・執行管理に関連する特定分野の機能からどのような恩恵を受けられるか、そして、リアルタイムの取引コスト分析 (TCA) が、アルゴ・ホイールなどのツールの有効性を高めるのにどのように役立つかについて掘り下げる予定です。
ここで、まずは基本に立ち返ってみましょう。「ロングオンリー」とはどういう意味でしょうか。多様な戦略を取ることができ、一般に適格投資家のみが利用できるヘッジファンドとは異なり、ロングオンリーのファンド・マネージャーは、その名の通り、資産の成長を目指して長期的な資産の購入と保有を重視します。
一般的な話になりますが、ロングオンリー・ファンドは通常、ヘッジファンドよりも運用資産総額が大きいうえ、退職・年金基金の加入者やその他非適格投資家の投資資産の運用を担っています。そのため、ロングオンリー・ファンドは、ヘッジファンドよりも厳しく規制されています。すなわち、取引システムの観点からは、プレ・トレードからポスト・トレードまでの取引フロー全体にわたって完全な透明性が不可欠であり、規制報告やコンプライアンスの豊富な機能を備えておく必要があります。
II. マルチデスク、マルチブローカー、マルチアセット、マルチデータ・センター
複数の地域にトレーディング・デスクがあるグローバルな多国籍のロングオンリー・ファンドは、執行管理の観点からさまざまな課題に直面しています。各デスクは、各地のブローカー経由の取引方法や、各地のデータ・センターに接続して流動性にアクセスする方法について、独自のワークフローを有する可能性があります。そのため、執行管理システム (EMS) には、それらのワークフローと接続性に対応できる柔軟性が必要です。しかしまた、あらゆる地域やデスク、ブローカー、資産クラス、データ・センターにかかわる取引活動のすべてを、単一のビューに統合する機能とのバランスも必要です。そうすることで、ファンドはポートフォリオのパフォーマンスとリスクを正確かつ統合的に把握する一方で、取引執行の観点から、すべてをより詳細に分析する能力を維持できます。
ロングオンリー・ファンドはまた、ヘッジファンドよりもブローカーとのかかわりが多くなります。そのため、彼らが生成して市場に発注するために最適なブローカー/アルゴの組み合わせを速やかに特定する手段を備えておくことは非常に有益です。この点で、アルゴ・ホイールはよく使われるツールですが、多くの場合、その機能性には限界があります。これは次回レポートで調査予定ですが、アルゴのパフォーマンスをリアルタイムで評価可能な指標を組み入れ、臨機応変にルーティング・パスを変更できるようにすることが、運用会社にとっては重要です。
複数の資産クラスを取引する機能も、多くのロングオンリー・ファンドにとって重要な要件です。この点で、真のマルチアセット・トレーディング・プラットフォームは、株式など単一の資産クラスに的を絞ったプラットフォームよりも優位性があります。たとえば、ロングオンリー・ファンドが債券取引を行う場合、債券や金利の先物、オプション、ETF に加えて現物債券を効率的に執行・管理でき、さまざまな流動性センター、カウンターパーティ、取引ベニューへの接続が可能なプラットフォームが必要です。
外国為替取引の観点から考えると、ロングオンリーの運用会社は外国為替エクスポージャーのヘッジを行う場合も、資産クラスとして外国為替の取引を行う場合も、FX Aggregator やカウンターパーティである銀行にアクセス可能で、外国為替についても株式で提供されている機能と同レベルのアルゴ取引機能を備える必要があります。
債券取引を行うファンドはすべて、リクエスト・フォー・クォート (RFQ) のワークフローにシームレスに対応し、取引意図、インベントリなどプレ・トレードのデータを表示する機能を備えたシステムが必要です。
もうひとつの重要な要件は、リスト取引、バスケット取引、プログラム取引など、より複雑で高度な取引戦略に対応する機能です。ロングオンリー・ファンドはそうした機能を用いて、大口の売買を同時に執行しながら、市場への影響と取引コストを最小限に抑えています。
III. アルゴリズム
取引執行に関しては、ロングオンリー・ファンドは一般に、ポジションを取るか、解消する際に大口取引を行うため、市場への影響は常に懸念事項となります。これが、ロングオンリー・ファンドのマネージャーの間で、アルゴリズム取引の利用が増加している理由のひとつであることは間違いないでしょう。最近の業界調査によると、ロングオンリー・ファンドは現在、VWAP/TWAP、出来高に応じた参加率、ダーク・リクィディティ追求型、インプリメンテーション・ショートフォール、ターゲット・クローズ/オークションなど、多岐にわたるアルゴリズムを用いて大口の注文を執行しています。また、アルゴリズム取引は、普通株だけではなく、株式バスケットのほか、ETF、上場デリバティブ、外国為替、債券など他の資産クラスにも用いられることが増えています。
ロングオンリー・ファンドのマネージャーの間で、アルゴ取引の利用が増加している理由は、市場への影響を軽減できるからというだけではありません。低コスト、使いやすさ、執行のスピード、複数の流動性ソースへのアクセス、匿名性、企業/デスク独自のカスタマイズ、市場への発注ルートに関する柔軟性、トレーダーの生産性向上、執行パフォーマンスの一貫性など、その他の要因もすべて、アルゴ取引の利用の増加に寄与しています。
一歩先を行くロングオンリー・ファンドの中には、現在、さまざまな取引執行ベニューの注文データを利用して、執行アルゴリズムのパフォーマンスをリアルタイムで注意深くモニタリング・分析し、そのデータをオーダー・ルーティング・ロジックに組み込み、たとえば市況に基づいて異なる参加率を設定しているものもあります。 そうしたロングオンリー・ファンドは、ポートフォリオの最適化にもアルゴリズムを利用しています。すなわち、過去のパフォーマンス、ボラティリティ、資産間の相関関係などの要因に基づき、リスクを最小限に抑えながらリターンを最大化するための資産の最適な組み合わせを特定しています。また、市場リスク、セクター・リスク、為替リスクへのエクスポージャーを評価し、望ましいリスク・プロファイルを維持するために必要な調整を行うなど、ポートフォリオのリスクをモニタリング・管理するためにロングオンリー・ファンドがアルゴリズムを利用するケースも増えています。っ
当然ながら、アルゴ取引により提供される上記のあらゆるメリットを完全に実現するには、ファンドはブローカーから提供されるものに完全に依存するのではなく、ファンド自ら包括的なアルゴ取引機能にアクセスする必要があります。そのため先見性のあるロングオンリーの運用会社は、こうした機能を備え、既存のテクノロジー・スタックと容易に統合可能な独立性の高い執行管理システム (EMS) を導入しています。
IV. まとめ
ロングオンリー・ファンドは現代のトレーディング・テクノロジーをますます活用するようになっています。アルゴリズム取引の導入が進むにつれ、データ統合、ポートフォリオの最適化、リスク管理、規制遵守、パフォーマンス要因分析、カスタマイズ可能なワークフロー、拡張性を提供する、マルチアセットで機能の充実した注文・執行管理システムを導入する先見性のあるファンドは、そのメリットを享受しています。
次回のブログでは、注文・取引執行管理に関連する特定の機能、特にリアルタイム取引コスト分析が、ロングオンリー・ファンドにどのようなメリットをもたらすのかについて掘り下げます。
よくある質問 (FAQ)
Q. 投資用語のバイサイドとは何を指しますか?
「バイサイド」という言葉はよく使われますが、バイサイドの運用会社の形態も規模もさまざまです。システム・トレード戦略を実行するクオンツからなる少人数のチームから、運用資産総額が何兆米ドルにものぼる多国籍の資産運用会社まであります。
本稿は英国現地時間 2023 年 5 月 19 日に投稿された "What do long-only funds look for in a trading system?" の邦訳です。
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