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2021年8月18日

ESG投資、日本は導入が遅れている?日本がESG投資を進める背景とは?

本稿は、2021年7月19日投稿された英文ブログの翻訳です。

David Runacres

 

リフィニティブ・ジャパン株式会社 

David Runacres

数年前の段階では、日本の金融サービス業界は ESG の波に乗り遅れたように見えました。このブログでは、日本がESG 指標とサステナブル投資の導入を積極的に進めるようになった経緯と、その変化を推し進めた主な要因を分析していきます。

 

1. 日本の年金積立金管理運用独立行政法人 (GPIF) は単独の年金基金としては世界最大規模です。GPIF は 2017 年以来、ESG 投資へ資金を割り当ててきました。

2. 結果、ESG スコアを採用することで、日本企業は投資家に対して ESG の実績を示す企業が増加しました。

3. 日本政府はすでに、2050 年までにカーボン・ニュートラルを実現するという目標を打ち出しています。業界でもそれに沿って、投資判断を通じて持続可能な開発目標の達成を目指すよう迫られることになりました。

 

日本の GPIF は単独の年金基金としては世界最大規模であり、運用資産残高は 1.6 兆米ドルにのぼります。これは、日本の労働者の何十年にもおよぶ勤勉な働きと努力の結果です。

当然ながら、これだけの規模の資産を保有していると、市場を動かす力と、その市場の基準を左右する力を持つことになります。また、日本には高齢化という、よく知られた人口動態上の課題があるため、GPIF は極めて長い視野で資産を運用する必要があります。さらに高齢化が進む国民に将来にわたって年金を支払う必要があるからです。

リフィニティブの ESG スコアは、基礎となる ESG データの枠組みをベースとして、企業の相対的な ESG パフォーマンスと能力を透明性の高いデータ主導型の手法で評価します

東京にある年金積立金管理運用独立行政法人 (GPIF) の看板なぜ日本は ESG の導入を進めたのか?

 

GPIF による ESG 投資開始の経緯

GPIF は、サステナブル投資の第一歩として、2015 年に責任投資原則 (PRI) に署名し、それに沿った投資原則を公表しました。

しかし、ESG 投資に資金を割り当て始めたのは 2017 年になってからでした。当初は ESG スコアの高い銘柄と、FTSE Blossom Japan Index など 3 つの ESG インデックスに 3 兆円 (270 億米ドル) を投じ、その後 1 兆円 (88 億米ドル) の資金を追加しました。

翌年には 1.2 兆円 (100 億米ドル) 規模の低炭素インデックスの運用を開始し、ESG を資産の質の評価基準とすることで ESG に舵を切ったことを明確に示しました。また、GPIF は、日本で委託しているすべての外部資産運用会社に対し、投資戦略の基本的な評価基準として「ESG を考慮に含める」ことを求めています。2017 年には評価基準も改定し、優れたスチュワードシップと ESG 関連の活動に関するスコアを大幅に引き上げました。

GPIF の運用規模が大きいため、こうした動きは日本国内はもちろん、アジア地域全体からも大きな関心を集めました。資産配分と採用したインデックスを公表するという GPIF の極めてオープンなアプローチは、米国に続いて大企業の多い日本の企業を中心に、多大な影響を及ぼしました。

 

ESG レーティングの利用が増加

GPIF が日本の上場企業を対象に行った最近の調査によると、中規模以上の企業のほぼすべてが、ESG 分野におけるファンドの動きと採用されているインデックスを把握していました。その結果、構造改革を行った企業もありました。

一部の比較的規模の大きい製造業企業では ESG レーディングを利用して、日本の大手製造業ではよく見られる複雑化したサプライチェーンのスコアを評価し始めています。ESG 要素への関心を高めるようになった投資市場に対して、ESG の優れた実績をアピールすることが狙いです。

このように日本では、ESG 原則を単なる投資配分の手段や資産の質の評価基準としてではなく、企業とその活動の評価に広く活用していく機運が見られますが、今後の数年間でこれは高まり続けるでしょう。

 

カーボン・ニュートラルを目指す政府

日本政府は今やその旗振り役となっています。菅首相は、現状維持を好み変化に根強い抵抗感を持つと見られていましたが、2030 年までのカーボン・ニュートラル実現を目指すという達成不可能と思われる目標を求める声が国内からあがる中、それを 2050 年までに実現するという意欲的な目標を発表しました。

さらに政府は、日本の持続可能な開発目標を公表し、エネルギーおよび環境問題の解決と、経済成長を両立させる方法を示しました。 こうした動きや流れの中で、業界はふたたび対応を迫られています。

最近では、日本政府のリーダーシップにより進展があったことが明らかになっています。第一生命と日本生命の両社は、今後、海外での石炭火力発電所の新規建設を目的とする融資を行わないことを発表しました。三井住友信託銀行と、りそな銀行も、石炭火力事業のための融資について、同様の方針を発表しています。

東京の首相官邸における記者会見で質問に答える菅義偉首相なぜ日本は ESG の導入を進めたのか?

 

投資家の行動への影響

市場内の主要な投資プールの動向が、投資家のみならず政府や業界そのものの行動を変え、その市場に非常に大きな「波及効果」をもたらすことは明らかです。

変化の要因が GPIF の ESG 活動だけではないことは明白ですが、その動きが、それまで日本で希薄だった危機感を生じさせたことは確かです。日本と世界にとっては、好機となる可能性が高いでしょう。

リフィニティブの ESG スコアは、基礎となる ESG データの枠組みをベースとして、透明性の高いデータ主導型の手法で、企業の相対的な ESG パフォーマンスと能力を評価します。

 

注)本稿は、2021年7月19日投稿された英文ブログの翻訳です。内容に相違がある場合にはリフィニティブのグローバルサイトに掲載されている原文が優先します。

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