知りたい投信 なるほどリッパー : 2022年10月21日

リスクを避けたはずが……裏目に出た「為替ヘッジ」

「歴史的な円安水準」と呼ばれる、最近の円安が投資信託にどのような影響を与えたかについて考察した。また、為替ヘッジ「なし」「あり」の仕組みについても詳しく解説した。

FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が、2022年8月26日にジャクソンホールで講演を行ってからというもの、円安ドル高が進んでいます。「歴史的な円安水準」と呼ばれるこの円安は、リスクを避けたい投資家には、むしろ裏目に出てしまいました。

I. 投資信託の為替変動リスクとは

投資信託の中には、同じ名前の投信なのに「為替ヘッジなし」と「為替ヘッジあり」の2つのコースがあるものがあります。これは、ファンド自体は同じ投資対象を組み入れていますが、為替相場の変動の影響を受けるタイプと、受けないように運用されているタイプの違いです。

為替相場の変動で基準価額が上下することを、為替変動リスクといいます。米ドルやユーロなど外貨建てで価格が表示される資産が持つリスクです。これらは、為替相場が変動すると、日本円から見た資産価値が上下します。たとえ株式や債券などの価格が変わらなくても、為替が動くだけで時価が変わるのです。

外国市場に上場している株式や債券、REIT(不動産投資信託)などは、基本的には株価や債券価格が現地の通貨建てや米ドル建てで取引されています。これらを組み入れている投信では、日本の投資家から円で集めた投信の運用資産を、外貨に交換して外国株や外国債券などを購入します。

投信は、毎日、純資産総額が計算されています。日々変動している為替相場に応じて、外国証券を組み入れた投信の純資産総額は上下します。例えば、投信の運用資産で米ドル建ての株式を持っている場合、円高・米ドル安になると、円換算した資産価値は目減りします。株価が変わらなくても、円に対して米ドル資産の価値が下がれば、投信の純資産は目減りします。つまり、基準価額が下がります。

II. 為替ヘッジ「なし」「あり」とは

これを避けるため、外国証券で運用する投信には、為替変動の影響を取り除いたタイプが用意されているものがあります。為替相場に関係なく、単純に、組み入れた投資対象の資産価値だけで投信の純資産を評価し、基準価額が決まるようになっています。

このような為替リスクを抑える運用のしくみを「為替ヘッジ」といいます。「為替ヘッジ」の「ヘッジ」は、「避ける」という意味です。「為替ヘッジ」は「為替変動リスクを避けること」。このしくみを使った投信が「為替ヘッジあり」です。

本来の運用は、為替変動の影響を避けること(ヘッジ)をしないので、為替ヘッジ「なし」です。為替相場に応じて価値が上下し、為替変動リスクを負います。「あり」「なし」の代わりに、「Aコース」「Bコース」と名付ける投信もありますが、表記が違うだけで中身は同じです。

為替ヘッジの方法は、外貨建て資産に投資すると同時に、将来その外貨を円に戻す時の為替レートを予約して契約するのが一般的です。あらかじめ、いくらで円を買い戻すか決めておくので、運用を経て円高・米ドル安になっても、予約したレートで円に戻すことができます。

III. 為替ヘッジのしくみ

では、米国株式で運用する投信を例に、為替ヘッジのしくみを説明しましょう。まずは金利や手数料を考慮せず、為替だけで説明をします。

1米ドル=140円の時に、基準価額が1万円の投信があり、1年後に1米ドル=140円で米ドルを円に戻す契約をしたとしましょう。1年後、株価は変わらず、為替相場は1米ドル=126円、約1割の円高になったとします。為替ヘッジをしていなければ、基準価額は1割下がって9千円。けれど、為替予約を契約した投信の純資産は1米ドル=140円で円換算できます。つまり、基準価額は1万円をキープできるというわけです。

なお、為替ヘッジは、投信の純資産の中で為替の買戻し予約がつけて運用するので、個人投資家1人ひとりが為替予約をするわけではありません。投信の購入時に「為替ヘッジありコース」を選択するだけで、特別な手続きは不要です。

IV. 為替ヘッジはコストがかかる

しかし、良いことばかりではありません。為替予約取引は、コストがかかります。基本的には、交換する通貨間の短期金利の差に相当します。単純化した図で説明しましょう。ただし、相場ですから需給の影響もあります。必ずしも理論通りではありませんが、考え方は以下の図の通りです。

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例えば、1米ドル=140円、1年の金利が円は1.0%、米ドルは3.0%とします。1年後の円は、金利がついて1円が1.01円となるので、140円は141.4円。米ドルは1米ドルが1.03米ドルになります。1年後に金利がついた後の日米通貨の比率は、「141.4÷1.03≒136.99」です。140円と約137円の差額、約3円が為替ヘッジコストです。為替ヘッジありコースの投信は、純資産の中から為替ヘッジコスト相当分を負担しています。

金利はお金の付加価値なので、投資対象が債券だから、株式だからということではなく、通貨の交換を行なって時間が経過したら、その通貨間の金利差が必ず生じます。(グラフ)で、日米の短期金利と円/米ドルの為替レートを示しました。米国が金利を引き上げ(青い折れ線グラフ)、日本が低金利政策(赤い線)を続ければ、円と米ドルの金利差はますます開いてしまいます。すると、為替ヘッジのコストは高くなります。

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投信は、コストが高ければ、その分、運用成績が下がります。「為替ヘッジあり」は、同じ投信の「為替ヘッジなし」に比べて、為替ヘッジコストが引かれる分、基準価額を下げてしまいます。

V. 為替ヘッジは、為替差益を放棄すること

投信の「為替ヘッジありコース」は、為替変動リスクを嫌う、安定志向の投資家が選ぶ傾向です。

けれど、大きな問題点があります。為替ヘッジを行うと、円安・外貨高になっても恩恵が受けられないのです。為替変動の影響を避ける契約ですから、為替差益は得られません。「為替ヘッジあり」は、為替による損失が発生しない代わりに、為替による利益が得られる機会も放棄するのです。

実在する投信で、騰落率を見てみましょう(表)。いずれも、9月末までの騰落率です。①~⑥は、実際に存在する投信で、投資対象分類が異なる銘柄を挙げました。

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同じ投信なら組み入れ対象は同じなので、為替ヘッジ「なし」と「あり」の差は、為替相場の差がそのまま反映されています。円・米ドルの為替レートは、9月末を基準にすると、8月末に比べて円が4.17%下がりました。6月末比で6.64%、3月末比で18.98%の円安です。1年前、3年前と比べると、円は3割ほど下がっています。

直近1年間は、多くの投資対象が値下がりし、①米国成長株、②IT関連株、③グローバル株、④米国リート、⑤先進国債券、⑥世界国債のETF、いずれも運用が芳しくありません。しかし、同じ投信どうしで為替ヘッジ「なし」と「あり」の間で比較すると、円安の恩恵を受けている「為替ヘッジなしコース」は、為替ヘッジを行った運用よりも下げが小さくなっています。

これは、為替変動リスクが良い方向に動いたためです。反対に、「為替ヘッジあり」では、為替ヘッジのコストを負担したにもかかわらず、リスク回避の必要がなかった、それどころか、円安メリットを受けることすらできなかったという状況です。

厳しいのは、債券を運用対象にした⑤と⑥です。投資ニーズとしては、「株式より債券の方が値動きは小さい」「為替リスクを負いたくない」という方が、⑤と⑥の「ヘッジなし」を選んでいると考えられます。債券の運用は、金利の上昇場面で債券価格が下落します。金利上昇後の高い金利の債券を組み入れることで徐々にカバーできることと思いますが、利上げの最中は、運用には厳しい場面であることは否めません。そのうえ「為替ヘッジあり」を選び、円安メリットが受けられないダブルパンチとなってしまいました。今後、組み入れ銘柄が高金利の債券に切り替わっていくまで辛抱が必要かもしれません。

「為替ヘッジ」は、為替変動リスクを回避する、リスク軽減の方法ではあるのですが、円安による値上がりも放棄するしくみであることを忘れてはいけません。

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