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知りたい投信 なるほどリッパー : 2022年8月22日

ESGウォッシュ問題を契機に

新規設定が増加傾向にある、ESG投信について、「グリーンウォッシュ」や「ESGウォッシュ」と呼ばれる問題点、代表的なESGファンドの現状や、ESG投信の情報開示の変化について解説した。

ESG(環境・社会・企業統治)に関連する投資信託への注目が高まっています。ESG投信の新規設定は増加傾向で、金融庁の集計では、2021年は96本。前年の41本から2倍以上の増加です。その一方で、「グリーンウォッシュ」や「ESGウォッシュ」と呼ばれる問題点も浮上しています。

I. 金融庁がESGウォッシュ問題に乗り出した

企業が環境に配慮しているように見せかけ、取引先や消費者の誤解をまねいていることを、グリーンウォッシュといいます。ここから転じて、ESGウォッシュという言葉も誕生。ESG投信の新規設定が積極的になる中、投資家が抱くESG投信への期待と実態との間にギャップが生じています。

2021年3月に欧州連合(EU)で発効された「サステナブルファイナンス開示規則」では、欧州の資産運用会社に、持続可能な投資をしている証明が義務付けています。遅ればせながら日本の金融庁は、2021年10月末時点のESG投信とその運用会社について、調査を行いました。

調査の内容は、まず2022年4月に「ESG関連公募投資信託を巡る状況」として公表され、それを基に、5月には「資産運用業高度化プログレスレポート2022」の中で、紙幅を割いてまとめられています。

調査対象となったのは、国内で販売されている公募型のESG投信を取り扱う国内の資産運用会社37社・ESG投信225本。組織体制、ESG投資の位置づけ、投資戦略・プロセス、エンゲージメントの実施状況、開示の状況等について調査しました。

純資産総額に注目すると、225本のESG投信のうち、7本のアクティブファンドに資金の半分が集中していました。信託報酬率は、非ESG投信より高めの傾向です。一方、パッシブ運用(いわゆるインデックスファンドなど)のESG投信は、コストは他のパッシブ運用より低いものの、投信としての規模は小粒です。

II. 代表的なESG投信の現状

ESG投信の現状について、概要と直近の運用状況等を表にまとめました。集計をしてみると、ESG投信は個々の個性が強く、ひとまとめにESG投信市場を論じるのが難しいと感じたことから、リッパーのデータで純資産総額の多いESG投信5銘柄を取り上げました。

知りたい投信 なるほどリッパー : 2022年8月22日: ESGウォッシュ問題を契機に

以前なら、同じ投資対象に分類される投信同士で、騰落率や純資産残高の推移、リスク・リターンを示す標準偏差などを使って数値を比較し、投信の運用成績の良しあしを判断していました。

ところが、ご覧の通り、一口にESG投信といっても、主となるテーマはさまざまです。そのため、運用対象となる企業はバラバラで、投信間での比較は現実的ではないと考えられます。

では、ESG投信を購入したいと思った時に、何を基準に選んだらよいでしょうか。

III. ESG投信の情報開示に変化

その前に、金融庁による調査報告に話を戻しましょう。

グリーンウォッシュと揶揄されていることを念頭に、金融庁では、「運用プロセス・アプローチの一層の強化、一貫性のある明確な説明や開示などの体制整備を進めることを期待する」とプログレスレポートにまとめました。2022年度末までには、監督指針が発表される予定になっています。

これらを踏まえ、運用会社が作成するESG投信の月次レポート(月報)の様式が、最近、変わってきました。

従来は記載されていなかった、投資対象企業のESGへの取組みや、その取り組みがどのように企業価値と結びつくのかについて、説明を加えるようになった運用会社があります。また、多くの運用会社では、ポートフォリオにESGのどのようなテーマ(脱酸素、水資源の確保、平等な社会・教育の実現など)を、どのような配分で組み入れているのかを明示するようになりました。ESG投信の情報開示が、変わってきています。

では実際に、どのような情報開示がなされているのか、上の表で示したESG投信の残高上位3銘柄を例に、2投資対象に関する項目をご紹介しましょう。ご紹介した以外にも、投資対象の企業が、それぞれ具体的にどのようなESG等の取り組みをしているのかの記述も見られます。

いずれも、運用会社が作成した2022年7月の月次レポートを引用し、国名や銘柄名などは、月次レポートの表記通りに示しています。

【ファンドA】 主な投資テーマ:ESG 投資対象:24銘柄

<組入上位5業種>※上位5業種シェア84.7%
情報技術(36.8%)、一般消費財・サービス(17.2%)、コミュニケーション・サービス(12.4%)、ヘルスケア(9.6%)、金融(8.7%) 

<組入上位5ヵ国・地域>※上位5ヵ国・地域シェア95.9%
米国(72.9%)、インド(8.7%)、デンマーク(6.8%)、イタリア(3.9%)、カナダ(3.6%) 

<組入上位10銘柄>※組入上位10銘柄シェア60.1%
HDFC銀行(インド/金融) 8.7%
サービスナウ(米国/情報技術) 7.6%
ウーバー・テクノロジーズ(米国/資本財・サービス) 6.9%
アドビ(米国/情報技術) 6.8%
ォルト・ディズニー(米国/コミュニケーション・サービス) 6.1%
アマゾン・ドット・コム(米国/一般消費財・サービス) 5.6%
ノボ・ノルディスク(デンマーク/ヘルスケア) 5.3%
セールスフォース(米国/情報技術) 4.5%
クーパン(米国/一般消費財・サービス) 4.4%
ビザ(米国/情報技術) 4.2%

【ファンドB】 主な投資テーマ:脱炭素 投資対象:70銘柄

<投資テーマ>※下記3テーマのシェア97.9%
産業用エネルギー転換(43.8%)、クリーン・エネルギー生成(29.6%)、交通・輸送の変革(24.5%)

<組入上位5業種>※上位5業種シェア88.7%
情報技術(33.4%)、資本財サービス(20.1%)、素材(18.4%)、エネルギー(10.2%)、一般消費財サービス(6.6%)

<組入上位5ヵ国・地域>※上位5ヵ国・地域シェア89.6%
アメリカ(77.7%)、日本(5.0%)、韓国(2.7%)、ノルウェー(2.1%)、イギリス(2.1%)

<組入上位10銘柄>※組入上位10銘柄シェア30.5%
エンフェーズ・エナジー(アメリカ/情報技術/クリーン・エネルギー生成) 4.8%
チャート・インダストリーズ(アメリカ/資本財サービス/産業用エネルギー転換) 4.3%
アルベマール(アメリカ/素材/産業用エネルギー転換) 3.4%
アナログ・デバイセズ(アメリカ/情報技術/交通・輸送の変革) 3.1%
モノリシック・パワー・システムズ(アメリカ/情報技術/産業用エネルギー転換) 2.9%
ベーカー・ヒューズ(アメリカ/エネルギー/産業用エネルギー転換) 2.6%
シュルンベルジェ(アメリカ/エネルギー/産業用エネルギー転換) 2.5%
シェニエール・エナジー(アメリカ/エネルギー/産業用エネルギー転換) 2.3%
ジェネラック・ホールディングス(アメリカ/資本財サービス/クリーン・エネルギー生成) 2.3%
フリーポート・マクモラン(アメリカ/素材/産業用エネルギー転換) 2.3%

【ファンドC】 主な投資テーマ:インパクト投資 投資対象:35銘柄

<投資テーマ>※下記4テーマのシェア99.2%
衣料・生活の質向上(33.9%)、平等な社会・教育の実現(31.7%)、環境・資源の保護(29.0%)、貧困層の課題解決(4.6%)

<組入上位5業種>※上位5業種シェア82.3%
ヘルスケア(28.9%)、情報技術(18.5%)、一般消費財・サービス(13.0%)、資本財・サービス(11.0%)、金融(10.9%)

<組入上位5ヵ国・地域>※上位5ヵ国・地域シェア73.2%
アメリカ(40.9%)、デンマーク(9.9%)、オランダ(8.8%)、台湾(7.7%)、ブラジル(5.9%)

<組入上位10銘柄>※組入上位10銘柄シェア54.1%
ASML HOLDING NV (オランダ/情報技術/平等な社会・教育の実現) 8.8%
TAIWAN SEMICONDUCTOR MANUFAC(台湾/情報技術/平等な社会・教育の実現) 7.7%
MODERNA INC(アメリカ/ヘルスケア/医療・生活の質向上) 5.9%
DEERE & CO(アメリカ/資本財・サービス/環境・資源の保護) 5.4%
MERCADOLIBRE INC(ブラジル/一般消費財・サービス/平等な社会・教育の実現) 5.0%
DEXCOM INC(アメリカ/ヘルスケア/医療・生活の質向上) 4.7%
ORSTED A/S(デンマーク/公益事業/環境・資源の保護) 4.7%
TESLA INC(アメリカ/一般消費財・サービス/環境・資源の保護) 4.2%
BANK RAKYAT INDONESIA PERSER(インドネシア/金融/貧困層の課題解決) 3.9%
HOUSING DEVELOPMENT FINANCE(インド/金融/平等な社会・教育の実現) 3.8%

上記の3投信の運用の中身から、「ESG投信」とひとくくりにして同列に扱うのは厳しいのではないか、とも感じて頂けるのではないでしょうか。

IV. ESGウォッシュ問題に取り組み、品質の良いESG投信を育てる

SRI(社会的責任)投資から始まって、これまで30年もの間、社会的課題の解決に関する投資は、ブームの波に寄せては返すことを繰り返してきました。一時的に関心が高まっても、パフォーマンスが見劣りすると「理念には共感するが、収益につながらない」などと嘆く声をどれだけ聞いてきたことでしょう。

今後は、ESG投資やSDGsへの取り組みが真の投資となるよう、投資家ご自身の考え方と合う投信を選んでみませんか。

基準価額の騰落率に一喜一憂するのではなく、「意義のある事業に資金を提供する」という、本来の投資の姿を取り戻すためには、むしろESGウォッシュは良い問題提起になったのではないでしょうか。これを機に、運用会社は、投資対象を選別する基準や運用プロセスをより透明にするとともに、投資対象企業との建設的な対話を通すなどして、資産価値の向上に努めるようになるでしょう。

ESGウォッシュ問題に正面から向き合い、真剣に取り組むことで、品質の良いESG投信が育ってくれればと願ってやみません。と同時に、投資家側も、ESG投資への向き合い方に対し、襟を正す時が来ているのではないでしょうか。