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2021年6月23日
世界的なインフラ投資のギャップを埋めるためにより良いデータを
本稿は、2020年1月9日投稿された英文ブログの翻訳です。


Chief Industry & Government Affairs Officer
Refinitiv
Sherry Madera
大規模なインフラ・プロジェクトは、プロジェクトごとに性質が異なるため、それらを分類、比較することは困難です。規制、気候変動、政治、資本市場、通貨に関するルールの透明性が低い新興国市場では、そうした難しさがますます顕著であると言えます。世界では低金利 (時にはマイナス金利) 環境が継続すると見られており、投資家はインフラを含めた他の資産クラスでリターンを得ることを余儀なくされています。
1、インフラは流動性が低く投資期間が長期にわたるため、その固有のリスク・リターン特性を理解しなくてはなりません。しかし幸いにもデータは急激に増加しており、かつてなかったほどの大量のデータを利用できるようになりました。
2、 2019 年 11 月時点で、中国の一帯一路構想 (BRI) の投資をモニタリングするリフィニティブのデータベースには 2,881 件のプロジェクトが収録されており、その総予算規模は約 3.45 兆米ドルに上ります。
3、2020 年は間違いなくインフラ投資における透明性の改善がさらに進む年となるでしょう。
長期金利見通し
インフラは流動性が低く投資期間が長期にわたるため、その固有のリスク・リターン特性を理解しなくてはなりません。しかし幸いにもデータは急激に増加しており、かつてなかったほどの大量のデータを利用できるようになりました。今がまさに、インフラ投資の透明性を大きく前進させるタイミングといえるかもしれません。


コンセプトから現実へ
インフラを資産クラスの 1 つとして考えるコンセプトを巡っては、G20 で数十年にわたって議論が展開されてきました。最近では資金ギャップの検証も進められており、アジア開発銀行 (ADB) は 2030 年までにアジアにおけるインフラの資金ギャップを埋めるための必要額を年間 1.7 兆ドルと予測しているほか、Global Infrastructure Hub は 2040 年までの世界における必要額を 15 兆ドル、McKinsey は 2035 年までの必要額を年間 3.7 兆米ドルと推定しています。こうしたニーズに対応する民間資本を引き出すことができるかどうかが、資産クラスとしてのインフラの可能性を切り開く鍵となります。民間の投資家は、他の資産クラスで享受できる水準のデータ透明性を求めるでしょう。これは資産クラスとしてのインフラのコンセプトを前進させるチャンスです。
現在のインフラ投資プレーヤーは、今後も大型インフラ・プロジェクト投資の中心であり続けるでしょう。世界の国際開発金融機関 (MDB) と各国の政府系ファンドには、グリーンフィールド・プロジェクトに資金提供する経済的な動機とリスク権限があります。世界銀行、ADB、欧州復興開発銀行 (EBRD) などの以前からのプレーヤーに、近年ではアジアインフラ投資銀行 (AIIB) および新開発銀行 (NDB) などの新規参入プレーヤーが加わっています。しかし、プロジェクト遂行にはさらに民間セクターの資金が必要です。今後のインフラ資金源として期待されるのが約 80 兆米ドルに上る年金基金を中心とした機関投資家の保有資産です。経済協力開発機構 (OECD) のデータによると、機関投資家の保有資産のうち現在インフラ資産が占める割合はわずか 1% です。しかし状況は一変するかもしれません。Global Infrastructure Hub–EDHEC のリサーチでは、約 90% がインフラ投資の拡大を計画していることが明らかになっています。
民間投資を誘発する「クラウディング・イン」の革新的な仕組みも広がっています。共同投資を行う民間投資家に対して、MDB の高い信用格付けを活用した一次的損失に対する保証を提供する仕組みを多くのファンドが確立しています。これは、民間投資家がインフラを資産クラスとして検討する大きなインセンティブとなっています。さらに、初期のフィージビリティ・スタディの段階から民間投資家を関与させる投資可能なプロジェクトのパイプライン構築の計画も、スタート時点からプロジェクトに民間の投資要件を反映させる後押しとなっています。今後市場性を持つ資産クラスとなるためには有効な一石です。
今後 2 年間で中国は、一帯一路参加国 (英語) への投資を年 14% 拡大すると見られ、2027 年までの総投資額は 1.2 兆~1.3 兆ドルへと倍増する見込みです。しかしながら、これでもなお次の開発の波を誘発するには不十分といえます。ADB の調査によると、アジア諸国におけるインフラ投資の必要額は今後 15 年間で計 26 兆米ドルにのぼると予測されています。
中国はこうしたギャップを埋めるために新たな投資資金を求めて、新しいパートナーシップを構築し、これまでとは違う資金調達手法を推進するでしょう。こうした動きはいずれも、世界各国の組織にとって一層大きなチャンスとなる可能性があります。現在、一帯一路プロジェクトに関与している中国国外の企業は半数をやや上回る程度であり、民間投資の関与はわずか 6% です。
次の波
世界的なインフラへの関心を高めた構想の 1 つが、2013 年に打ち出された中国の一帯一路構想 (BRI) です。2019 年 11 月時点で、中国の BRI の投資をモニタリングするリフィニティブのデータベースには 2,881 件のプロジェクトが収録されており、その総予算規模は約 3.45 兆米ドルに上ります。
最初の BRI 投資の波では中国が資金提供を担いましたが、今後の開発規模を鑑みれば、中国国外の金融サービス機関が将来的により大きな役割を果たすことになるでしょう。それ以外にも、インフラ・ニーズに対応する世界的な動きが出てきています。2019 年 11 月に始まった米国、オーストラリア、日本が参加するブルー・ドット・ネットワークなどがその代表例です。 こうした流れは、世界的なインフラ投資の透明化と投資機会の拡大につながります。
環境への配慮と資金誘致
サステナビリティは今や世界的な重要課題として投資プロセスに組み込まれており、規制当局が求める ESG の透明性の水準はますます高まっています。インフラ投資は、温室効果ガスの排出、廃棄物、生物多様性と水環境への影響といった点から、気候変動にも大きく関係しています。投資対象のインフラ・プロジェクトに環境配慮とサステナビリティの認証を求めるのは当然の流れと言えるでしょう。世界の MDB はすでに投資前の環境影響評価 (EIA) 実施の義務化に率先して動いています。
例えば、「Lean, Clean and Green」を掲げる AIIB は、インフラを資産クラスとして開発し、インフラ投資向けの債券市場を確立して、アジア新興国における債券投資に ESG 原則を統合することを目指しています。BRI も、BRI のためのグリーン投資原則 (GIP) の中で同様の目標を掲げており、コーポレート・ガバナンスへのサステナビリティの統合、ESG (環境・社会・ガバナンス) リスクの把握、環境情報の開示、ステークホルダーとのコミュニケーションの改善、グリーン金融商品の活用、グリーン・サプライチェーンの導入、連携協力を通じたキャパシティ向上などを謳っています。リフィニティブは、GIP に署名している企業のひとつです。
2020 年は、インフラの資産クラス化にとって重要な年となるか
インフラ投資の十分な比較が可能になる環境を構築するにはまだ時間がかかると見られます。しかし、2020 年は間違いなく透明性の改善がさらに進む年になるでしょう。 留意すべきは以下の点です。
1、インフラ・プロジェクトにおいて完全な比較というものは実現しないでしょう。しかし、これは株式や債券においても同じです。また発行企業もインフラ・プロジェクトと同様に、それぞれ違うものです。
2、「インフラ」という言葉は幅広い意味を持っています。輸送やエネルギーのようなサブセクターから始めて、最初のインフラ資産クラスを構築していくのがよいのかもしれません。
3、カントリー・リスクは、インフラ資産クラスの構築において無視できないものです。政府や国の機関がプロジェクトに大きく関与していることが多いため、リスクの比較についてはグローバル債券市場と同様の対応が必要です。
4、グリーンフィールドがブラウンフィールドと違うというのは、インフラの開発はもちろん資金調達にも当てはまります。レイターステージの投資家が、リスクアペタイトとリターン要件を継続的に一致させ、早い段階で関与できる方法を探さなくてはなりません。
やるべきことは山積みですが、今以上に持続可能なインフラ資産クラスへの投資にふさわしいタイミングはありません。2020 年も引き続きイノベーションを促進することは可能であり、また、そうしなくてはなりません。
注)本稿は、2020年1月9日投稿された英文ブログの翻訳です。内容に相違がある場合にはリフィニティブのグローバルサイトに掲載されている原文が優先します。
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