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2021年5月19日
反社チェックの必要性と考えられる4つのリスク


企業が反社チェックを行なう理由は、取引を行なう中で、金融をはじめとする犯罪に巻き込まれたり、意図せず犯罪に加担したりすることを未然に防ぐことが第一に挙げられます。加えて、反社勢力との繋がりが明るみになることでステークホルダーからの信頼を失うなどのレピュテーション・リスク(風評被害)を回避することも期待されます。
では、実際に反社チェックを行わなかった場合に考えられるリスクとはどのようなものがあるのでしょうか? 事例やそれを基にしたストーリーと合わせて確認してみましょう。
目次
1. 反社チェックの必要性、実施しないと考えられるリスク
2. 反社チェックの必要性、コロナ禍やESG対応によって高まっているリスク
3. 反社チェックの必要性、実施しないと起こりうるリスク – コロナ禍で生じた問題
4. 反社チェックの必要性、実施しないと起こりうるリスク – 複合的な問題に発展するケース
5. まとめ


1. 反社チェックの必要性、実施しないと考えられるリスク
反社チェックで特定するべきなのは、その企業の実態が反社勢力そのものなのか、もしくは、反社勢力と関わりがあるのか、という点だけでなく、経営陣などの役員が反社勢力の一員、あるいは、それと繋がりがあるかどうかという点まで含まれます。
そのように広範囲の実態を確認するために、企業は、「顧客管理(CDD:Customer Due Diligence) 」と「顧客の本人確認(KYC:Know Your Customer)」を徹底しなくてはなりません。また、コンプライアンス部門をはじめ、ビジネスの最前線に立つ営業部門や調達部門などのスタッフも含めて、”リスク感受性”を高め、いざとなれば相手企業の実態を明らかにするべくスクリーニングやデューデリジェンスを行なう、といったプロセスを徹底させるべきです。
反社チェックを実施せず、取引先企業が“不都合な企業”だったことを見逃して取引をしていた場合、企業は、マネーロンダリングやTBML(貿易ベースのマネーロンダリング)、国内外の反社・テロ組織への資金供与、贈収賄、汚職(腐敗防止対策の不備)といった犯罪に巻き込まれるだけでなく、「犯罪の片棒を担いだ」とみなされてしまうおそれすら考えられます。
2. 反社チェックの必要性、コロナ禍やESG対応によって高まっているリスク
上述のようなリスクの上昇だけでなく、今日ではESGリスクの懸念も無視できなくなっています。例えば、2016年に米国で施行された「貿易円滑化・貿易執行法」。これは、知財権保護のための権利行使や強制労働による製造物の輸入禁止の強化などを定めており、近年、米国が積極運用している貿易関連の法令のひとつです。
この法令に則り、一部の製品にトルクメニスタン産の綿が混入されている全製品が荷揚げ差し止めになった事案が2018年に起こりました。収穫の際に、同政権が児童労働や他業種の労働者を強制労働させていたことが理由だとされています。同じく、2019年には中国の新疆ウイグル自治区内で製造された衣料品が強制労働のもと製造されたとして、輸入禁止になった、という例があり、この問題は今日でも世界的な問題として知られています。
米国だけでなく、EU各国内や豪州でも強制労働や児童労働、労働搾取を廃する、という考えを取り入れた貿易関連の法令(英国現代奴隷法、豪州現代奴隷法、オランダ児童労働due diligence法など)の立法化が目立ってきました。このような欧米の法令は「日本企業には直接関係はない」との声も出てきそうですが、必ずしもそうとは言い切れません。
その理由のひとつが「域外適用」です。域外適用は、国外において起きた犯罪に対し、自国になんらかの関係があると認められた場合は海外での出来事であったとしても法令を適用する、というものです。
近年、この域外適用によって罰金が言い渡されるケースは増加傾向にあるため、少しでも海外との繋がりがある企業や外国人労働者を受け入れている企業、そうした企業を取引相手にしている企業は、注意しておく必要があるでしょう。
3. 反社チェックの必要性、実施しないと起こりうるリスク – コロナ禍で生じた問題
新型コロナウイルスをきっかけに国内外で起こった詐欺事件も、反社チェックをすることで未然に防ぐことができたかもしれない、というケースはあります。一時期、不織布マスクが品薄状態になっていたころに小売業や卸売業者に対し、「特別なルートを経由して不織布のマスクを手に入れることができそうだ。いま販売すれば多くの人が購入したがるだろう」と持ちかけてくる例があったと言います。
実際に売買契約を結んだある企業は、「代金を振り込んだにも関わらず製品が届かない。心配になって問い合わせてみたところ、はじめのうちは『輸出規制がかかっているので、まだ時間がかかりそうだ』と納期の引き伸ばしをされ、最終的には連絡が取れなくなった」という事案に巻き込まれたと聞きます。後になってマスク販売を持ちかけてきた会社の住所を調べてみると、事務所の看板すらなく、実態のない企業だったことが分かったそうです。
こうした事案の場合、もし契約を結ぶ前に反社チェックを徹底し、企業の実態を調べていたら、詐欺被害は防げたと考えられます。しかし、冷静な状態であれば、そう考えられたとしても、「このチャンスは逃したくない!」と考えた時、時間がかかる手続きや決まり事が後回しにされることもありうる話ではないでしょうか。
驚くべきことに、同様の構図で、ある国の公的機関が国際詐欺被害に遭いそうになった、ということも分かっています。
4. 反社チェックの必要性、実施しないと起こりうるリスク – 複合的な問題に発展するケース
次に、ありふれた取引であったとしても反社チェックの不徹底が国際金融犯罪にまで発展する、という事案をストーリーで解説してみましょう。製造業ではもはや海外の工場への委託は珍しいことではなくなっています。ある企業も、製造する量やスピード、コストを考慮した結果、アジア圏内のある国に製造拠点を立ち上げ、その運営をある会社に委託してビジネスを推進することにしました。委託先の会社は既存の取引先からの紹介だったため、経営陣らは「大きな問題は起こらないだろう」と、反社チェックも自分たちが調べられる範囲ですませていたとします。しかし、実はその会社の従業員の中には、外貨獲得の目的で自国民を出稼ぎに出している制裁国の出身者が多数在籍していた、としましょう。
このような場合、制裁国の出身者が就業する工場で製造された製品は制裁対象になるおそれが生じます。そうなれば輸出ができないなどの損失が発生し、企業は、販売計画を大幅に変更せざるを得なくなったり、収益計画の変更を余儀なくされたりと、大きな問題に直面してしまうことが考えられます。
さらに、制裁国の出身者の労働者が制裁国である本国に対し、賃金として得た金銭を“仕送り”として送金していることが分かれば、事業リスクはもちろん、制裁国への資金供与に “利用”されてしまった、ということにもなりかねません。
また、それがドルを介して行われていたとすれば、米国のForeign Corrupt Practices Act(FCPA)のような贈収賄や腐敗防止に関する法律の域外適用を受けてしまうことも考えられます。また、例えば英国のポンドならUK Bribery Act(UKBA)が、そのほかの外国通貨ならその当該国の法令によって域外適用を受けてしまうと考えられます。
一方、委託先の企業の経営陣らを詳しく調べた結果、政府高官などのPEPsとみなされる人物であったなら、贈収賄事件や制裁国への利益供与につながると判断される場合もあります。あるいは、委託先の企業の利益を最終的に受益する人物(UBO)がそのような立場の人物であった場合も、同様の嫌疑がかかると懸念されます。
このストーリーは「大袈裟だ」と感じるかもしれません。しかし、反社チェックによって取引相手の実態を詳しく知らなければ、それを徹底した場合よりも格段に高いリスクを抱え込むことになるのは間違いないでしょう。
5. まとめ
反社チェックの必要性と考えられるリスクについて、国内外の動向も踏まえて解説していきました。国内を主な市場とする日本企業の場合、海外市場や当局の動きに注意を払うよりも国内の向き合うべき課題に注力する傾向が強くなりがちではないでしょうか?
しかし、ビジネスの変化に伴い、今日では、これまでのコンプライアンス・ガバナンスの“常識”を刷新し、ESGリスクのような新しいトピックも含めて国内外の潮流に意識を向けることが強く求められるようになっています。
Refinitivはこれからも、反社チェックをはじめとする企業のリスク低減に向けた取り組みに役立つ優れたデータとソリューションを提供し、すべての企業が安心してビジネスを推進できる環境を整えられるよう、支援してまいります。
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