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2023 年 11 月 16 日
金融機関が人権を重視する理由と投融資の審査への影響
本稿では、2023 年 9 月に開催された「リフィニティブ・リスクマネジメント・セミナー ビジネスと人権: 世界の潮流と企業に求められる行動」に登壇した、株式会社みずほフィナンシャルグループ リスク統括部 サステナビリティリスク管理室 調査役 長谷川卓氏のご発言を紹介し、企業が抱える人権課題を金融機関はどう捉えているのかを確認していきます。
リフィニティブ編集チーム
2022 年 9 月、日本政府が「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」を発表して以来、「ビジネスと人権」は注目のテーマになっています。しかし一方で、「あくまで努力義務にとどまる」と捉える向きも少なくないようです。
そんな中、2023 年 6 月に報じられた、「日本の 3 メガバンクが融資の際、人権問題を厳しく審査する」とのニュースは、企業にとって大きなインパクトになったと推察します。
本稿では、2023 年 9 月に開催された「リフィニティブ・リスクマネジメント・セミナー ビジネスと人権: 世界の潮流と企業に求められる行動」に登壇した、株式会社みずほフィナンシャルグループ リスク統括部 サステナビリティリスク管理室 調査役 長谷川卓氏のご発言を紹介し、企業が抱える人権課題を金融機関はどう捉えているのかを確認していきます。
I. 金融機関にとっての人権課題と投融資先への対応 〜みずほ FG の例〜
― 金融機関にとっても「ビジネスと人権」は大きなテーマになっています。みずほ FG ではどのような取り組みをされているのでしょうか。
長谷川氏:
みずほ FG では、長らく ESG (環境・社会・ガバナンス) や SDGs (持続可能な開発目標) 達成への貢献を考慮した活動を続けてきました。また、「ビジネスと人権」にも関わる様々な国際的なイニシアティブへの参加もしています。
もちろん、それらのイニシアティブに基づいて実践的な取り組みも進めており、今まさに、対応すべき人権課題に優先順位をつけて一歩一歩、取り組んでいる段階です。
中でも、金融機関として「責任ある投融資」を行うにあたって、みずほ FG では 2018 年に「人権方針」を初めて制定、その後、世の中の環境変化を踏まえて 2022 年には内容の見直しを行い「強制労働、児童労働、人身取引」を、優先的に対応する必要がある人権課題と定める等の改定を実施しました。
これを受け、投融資を行う際には、策定した「環境・社会に配慮した投融資の取組方針」に則ってこれらを中心にリスクの有無を確認することとしました。
「環境・社会に配慮した投融資の取組方針」の運用は段階的になっており、例えば、新たなお客様との取引開始前にはすべてのお客様を対象に外部情報を用いて人権課題が発生していないか初期スクリーニングを実施することになっています。
この初期スクリーニングにおいて活用しているのが、「Refinitiv World-CheckONE」です。みずほ FG 全体の取引数は膨大で、各フロントがすべて同じ水準でスクリーニングを行い、問題を掘り下げていくのは現実的ではないと判断し、信頼性の高い外部データを備えたスクリーニングサービスを活用することになった、というわけです。
また、スクリーニングの結果、何らかのインシデントが発生していることがわかった場合には、より掘り下げて、インシデントの内容やお客様の状況を理解していくための強化デューデリジェンスを行うことになっています。
これは、国連「指導原則」を踏まえ、「責任ある企業行動のための OECD デューデリジェンス・ガイダンス」も参照した人権デューデリジェンスで、人権への負の影響を特定・評価し、防止・軽減するための一連のプロセスと位置付けています。
II. 投融資先に人権課題が見つかった際の対応は?
― インシデントの内容は様々だと考えます。具体的にどのような点を重視しているのでしょうか?
長谷川氏:
インシデントが発生しているとわかった場合、次のような観点で確認を進めていきます。
- 取引先は人権への負の影響にどのように関与しているか
- 取引先は人権への負の影響を防止・軽減するために社内プロセスや体制を強化しているか
- 取引先は負の影響に対して是正や再発防止策の策定を行っているか
特に ( 1. ) については、関与形態によって解決に向けて果たすべき責任が異なるというのが「ビジネスと人権」における考え方です。そのため、みずほ FG のお客様が実際にどのような関わり方をしているのかを見極め、ガイドラインに沿った対応を案件ごとにしっかりと行なっていきます。
― 直接のお客様ではなく、そのサプライチェーン上で人権問題が起きている場合、どのような対応をするかは難しいところだと想像します。
長谷川氏:
そもそも、事業活動が与える人権への負の影響については完全にゼロになることは考えづらく、どれだけ注意していても排除しきれないと考えます。
それを念頭に、予見しきれなかった問題が、① 自社の活動により引き起こしてしまった場合、② 自社の意志や行動により第三者が動機付けられたことで助長している場合、③ ビジネス上の関係によって直接結びついている場合と、3類型のいずれに該当するのかをしっかりと検証し、国連の「指導原則」に則って、負の影響を是正すべくエンゲージメント (対話) 等の対処をしていく方針です。
― 仮に投融資先で人権問題が認められた場合、「投融資が見送られるのではないか」と懸念する企業は少なくないと考えます。
長谷川氏:
確かに、様々な調査や検証の結果、人権問題が発生しているとなれば、その事実は投融資の判断に影響することにはなります。
しかし、そうではありますが、基本的な考えとしては、まずは事実を確認し、人権課題の解消に向けたエンゲージメント (対話) を行っていくことを第一に考えています。
また、例えば海外会社との取引をされているお客様の場合、構造的あるいは地域的な問題が原因で、単独一社の努力だけではそこにある人権リスクを解決できないこともあると考えます。
そのような一社の努力で解決し得ない問題に直面していることがわかっているにも関わらず、そのことを理由に「取引をしない」と判断するのは根本的な問題解決には繋がらないと言えます。
むしろ、一緒に問題解決することを目指し、そのお客様がどのような取り組みをしているのかをしっかりと理解し、我々としても金融機関としての影響力を行使することで適切な関係者に対して効果的な働きかけをしていきたいと考えています。
例えば、是正や再発防止を求めるといったエンゲージメントで、共に解決に向かって進んでいきたいというスタンスです。
III. 人権対応に取り組む企業と協働する体制も
ーー「個社で解決できない問題を一緒になって解決していく」というのは企業にとって心強い言葉です。みずほFGでは、財務や事業全般における相談先としてだけでなく、人権対応や人権デューデリジェンス等に関するご相談も受けておられるとのことですが、どのような体制でしょうか。
長谷川氏:
2022 年 11 月、みずほ FG は LSEG と人権領域における提携を開始し、お客様から相談があった場合には、協働でサポートができる体制を整えました。
具体的には、何らかのインシデントについてのデューデリジェンス・プロセスやレポート支援、スクリーニングサービスについても提供し、お客様の「ビジネスと人権」対応をサポートしていきます。
また、グループ会社のみずほリサーチ&テクノロジーズでも、コンサルティングの一部を請け負っています。
IV. さいごに
みずほ FG をはじめ、金融業界では、積極的に人権課題に向き合い、「責任ある投融資」を全うしようという姿勢を強くしています。また、その一環として、「人権リスクをゼロにすることは難しく、個社で対応しきれないことは協働して取り組むことで課題解決を模索していく」という考え方も示しています。
では、企業としてはどのような対応をしていけばいいのか? この難題を前に、改めて頭を抱えてしまう企業や担当者もいらっしゃるかもしれません。
そうした際、今一度、「ビジネスと人権」が重視されるようになった背景や世界の潮流を整理し、人権対応を進めている企業の先進事例を参考にすることは大きなヒントを得るきっかけになるのではないかと考えます。
2023 年 9 月、国際労働機関 (ILO) 駐日事務所 田中竜介氏や ANA ホールディングス 宮田千夏子氏、みずほフィナンシャルグループ 長谷川 卓氏を招いて開催した、「ビジネスと人権: 世界の潮流と企業に求められる行動 (リフィニティブ主催) 」の内容をまとめた「コンプライアンスInsight 2023 特別号」は、その一助になるべく発行したレポートです。ぜひこちらも合わせてご覧ください。
コンプライアンス INSIGHT 2023 特別号 (セミナーレポート)
ビジネスと人権:世界の潮流と企業に求められる行動

~人権尊重責任を果たすために必要な視点と環境とは?~
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