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2023 年 5 月 24 日

2023年、グロース株の不可解とも言うべき復活の裏事情

本稿は英国現地時間 2023 年 5月 9 日に投稿された "The Strange Return of Growth" の邦訳です。

2022 年、これまで順調だった ESG 投資の勢いにわずかな翳りが見える場面が…。

Head of Research, UK and Ireland at Refinitiv Lipper,
Dewi John

I. SUMMARY

  • グロース株の復活: 2023 年は、欧米の主要指数のトップ 3 がすべてグロース株 (成長株) で占められている。
  • ハイテク株のリバウンド: グロース株の強さの理由はハイテク株の回復。この 4 カ月で、ブロックチェーン専門の ETF がハイテク大手を上回るリターンを達成。
  • なお残る懸念: しかしハイテク株の回復には限界も。利上げがインフレ抑制に妥当かどうかは疑問が残る。
     

今年、グロース株 (成長株) が復活の兆しを見せています。

MSCI、FTSE UK、Russell 1000/2000 のグロース株とバリュー株 (割安株) の指数のうち、上位 3 つがすべてグロース株でした。米国の Russell 1000 グロース (※1) も年初来最高益を記録しています (図1) 。2022 年は、このインデックスが年間 20.2% も下落し、グループの中でも最低のパフォーマンスだったことを考えると、大逆転ともいえる急上昇ぶりです。FTSE UK Value インデックスも、年間で最高の 8.8% のリターンとなりました。

 

※1: Russell 1000 グロース | ラッセル米国インデックスシリーズのうち、大型株で構成され、株価純資産倍率 (PBR) と利益成長見通しの総合ランキングで高い銘柄の投資尺度として開発されたインデックス

 

過去一年間の世界、米国、英国市場でのバリュー株対グロース株の株価指数比較/出典:Refinitiv Lipper

図1:  過去一年間の世界、米国、英国市場でのバリュー株対グロース株の株価指数比較/出典: Refinitiv Lipper

 

昨年の金利上昇を受け、市場の関心はグロース株の成長よりも、現在の収益に集まりました。こうした現在の収益への関心が、グロース株のリターンを押し上げた側面があります。2023 年に入ってからも金利は依然この 20 年でも高い水準で、本来ならグロース株が盛り上がるような状況ではありません。にもかかわらず、この大幅な回復は予想に反する様相を呈しています。

 

II. ハイテク関連銘柄の回復

グロース株の持ち直しは、ハイテク株が持ち直したことに起因しています。対してエネルギーファンドは、石油・ガス企業の増益にもかかわらず、昨年のような絶好調ぶりはうかがえません (図2) 。

 

年初来のリッパー株式セクター分類におけるIT部門とエネルギー部門の比較/出典:Refinitiv Lipper

図2: 年初来のリッパー株式セクター分類におけるIT部門とエネルギー部門の比較/出典: Refinitiv Lipper

今年に入ってからの 4 カ月で、Apple と Tesla の株は 30% 以上伸び、Alphabet は 21% 以上のリターンを上げ、Meta に至っては 2 倍以上の伸びを見せました。AI への熱狂に乗じて、投資家は AI に注力した IT 大手に殺到しました。にもかかわらず、リッパー株式セクター分類の IT 部門では、年初来のトップ 6 がブロックチェーンに特化した ETF となり、21.8% ~ 85.8% の利益を出しました。Apple や Meta、Alphabet がパッケージングされたファンドがランキングに出てくるのは、これら上位組の後です。

注目すべきは、上位 8 位までのハイテクファンドがすべてパッシブ型だったことです。これらのファンドには、暗号通貨から半導体まで、とても多様なハイテク指数の ETF が含まれています。今は、ナスダック・トラッカーを売買するような市場全体に投資をする、パッシブ型運用の時期ではありません。

こうしたハイテクファンドの多様化は収益にも影響しています。サイバーセキュリティや E コマースに投資するファンドの多くは、話題になっているにもかかわらず、収益はマイナスにとどまっています。

 

III. 流れに乗じて

ハイテク分野の回復基調はフローにも反映されています。昨年、リッパー株式セクター分類の IT 部門において、英国の登録販売者向けファンドから 52 億ポンドの資金が流出しました。一方、主要な石油・ガス銘柄からなるエネルギー部門には 7 億 6,500 万ポンドが流入しています。

ところが 2023 年の 4 カ月で、この流れは逆転しました (IT 部門には 7 億 6,300 万ポンド流入し、エネルギー部門からは 10 億 6,000 万ポンドが流出しています) 。

IT 部門に流入した資金の多くは一般的なハイテクファンドに流れていますが、Xtrackers Artific Intelligence & BigData UCITS ETF (XAIX) 、Allianz Glificial Intelligence A-EUR (AGIF) はそれぞれ 1 億 5,500 万ポンドを集めており、特定の AI 関連投資に関心が集まっていることがうかがえます。AI の役割を考慮すると、これらのファンドのポートフォリオには、おなじみの IT 大手企業の株が多く含まれているのも当然です。

とはいえ、IT 産業の回復 (つまり成長) には限界があります。金利が下がるには時間がかかりそうですし、今の状況でインフレ抑制のために利上げをするのが妥当なのかについては懐疑的です。米国の需要がトレンドを上回っていない中で利上げしてしまえば、誰も望んでいない景気後退を間接的に進めてしまうことになりかねません。

さらに、金利が高止まりするほど資本コストも高くなり、成長志向の企業には不利になってしまいます。昨年ハイテク株は急落しましたが、依然としてさらなるバリュエーション (企業価値評価) 低下の懸念が残っています。
今回の回復は、こうしたハイテク株低下の懸念を払しょくするものではなさそうです。

しかしケインズが言うように、市場は、投資家が耐え切れなくなるほど、長い間不合理な動きをすることがあるものです。根拠は定かでないにしろ、こうした市場の側面に引き続き注目していきたいところです。

 

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※この記事に示されている意見は著者の見解であり、Refinitiv の意見を反映しているものではありません。また、この記事は市場の解説および教育目的で提供されており、投資の研究や助言の提供ではありません。

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本稿は英国現地時間 2023 年 5 月 9 日に投稿された "The Strange Return of Growth" の邦訳です。

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