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2021年1月18日
東京国際金融センター「構想」は、「実現」フェーズに移行中。課題と解決への糸口は?



リフィニティブ・ジャパン株式会社
上席執行役員
笠井康則
昨年10月の菅首相による所信表明演説、直近では麻生金融相の東証大発会における挨拶等、この数カ月で「国際金融センター」について頻繁に耳にするようになっている。過去に何度も浮上してきた「構想」だが、ようやく「実現」へと動き始めた。東京都が推進している東京国際金融センター構想に関したアクティビティも引き合いに出しつつ、現状と今後の課題について、私見も含め、簡単にまとめてみたい。
英シンクタンクのZ/Yenグループなどが発表している国際金融センター指数において、2020年9月時点で、東京は4位となっている。1位はニューヨークで、2位はロンドン、3位は上海が入った。
世界中の多くの都市の中から、東京が高い評価を受けていることは喜ばしいことだが、その一方で、国際金融センターとして、ニューヨークやロンドンと比肩するようになるには、またアジア地域においてシンガポールや香港と比較してみても、金融ビジネスの集積という観点では、まだ日本は多くの余地がある状況であろう。
特にアジア地域内での課題として、よく取り上げられるのは「税制」と「登録手続きの容易さ/煩雑さ」の2点。まず、今回の金融センター構想に関する議論において、過去には避けられていた税制に関する議論が始まっていることは、大きなステップアップと言ってもよいであろう。ここで、ポイントになるのは「ヒト」であろう。菅首相の所信表明演説において、「国際金融センターは新たな人の流れをつくる」という文脈の中で取り上げられていた。金融人材をいかに日本に呼び込むかという観点での構想であることがわかる。そして、税金についても、相続税をはじめとした「ヒト」に係る部分から議論が始まっている。
続いて登録業務。金融ビジネスにおいて登録業務は必須のこと。「登録手続きの容易さ/煩雑さ」については、オンラインで多くの登録業務を完結できるシンガポールと比較すると、まだギャップがある。しかしながら、例えば金融庁・財務局合同による「金融業の拠点開設サポートオフィス」の設置、東京都によるビジネスコンシェルジュの設置、また、英語対応の進捗など、実務レベルでのサポートが着実に進んでいる。
一歩ステップバックして、金融ビジネスそのものについての課題はどうであろうか。リフィニティブも参加している東京国際金融機構(略称:FinCity.Tokyo)における議論を踏まえると、金融ビジネスを成立させるには、ビジネスのためのエコシステムの整備が重要と位置づけられている。また、さらに、もう1歩手前の話をすると、そもそもビジネスに入るための成長期待が根本的な課題である。
海外の投資家や同僚と話す中で、日本の成長に対して、相反した感情を持っていることに気づかされることがある。高齢化社会、アジア諸国と比較した低成長といったネガティブな感情、一方では、ユニークで高度な技術、そして安定した成長に対するポジティブな感情。現状のコロナ禍の中で、ビジネス参入に十分な成長期待を明確にし、「ヒト」を呼び込む形態での金融ビジネスを集積させるのは難しいのではないかという意見があってもおかしくない。
以下、私見ではあるが、コロナ禍による様々なチャレンジがありつつも、デジタル化が進むことにより生み出される膨大なデータは、結果的に国際金融センター構想を推進する原動力を生み出すと考えている。
SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)が標榜される世界において、透明性の高いデータはさらに重要となる。また、信頼性の高いデータを、安定的に入手する必要性も高まると考えている。紙文化が根強い日本でデジタル化が進むことは、投資判断をサポートする材料が飛躍的に増加することにつながるであろう。また、個人が自助努力で資産運用することが必須となる昨今の社会を考えると、個人投資家の代わりにデータを分析し、独自の付加価値を見出すプレーヤーの増加に期待が高まり、ここにビジネスチャンスが生まれる。
参考までに、2020年末までの1年、3年、5年の株価変化率のヒストグラムを作成してみた。パフォーマンスがマイナス5%~マイナス10%の銘柄が多い中、50%を超える銘柄も多数あることがわかる。サバイバル・バイアス等の考慮が必要だが、5年間で100%(2倍)以上になった銘柄が全体の25%を占めている。平均値からは読み解けないこのような状況をチャンスと見るか、リスクと見るか。デジタル化されるデータの中に多くの判断基準が含まれるとすれば、チャンスと考えるのが投資家の常であろう。

最後に、東京が国際金融センターとしてどのように変わっているかを目で見て確認したい方には、クールな町としてランキングされた兜町を散歩することをお奨めしたい。大きな変化が既に動いていることを体感できるだろう。

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