2022年6月16日

日本企業が抱える海外M&Aの課題とは?

本稿は、2022年5月24日投稿された英文ブログの翻訳です。

David Runacres


Head of Japan, Data &Analytics,
London Stock Exchange Group (LSEG)

David Runacres

日本による海外M&A 活動がコロナ禍から回復し始める中、地政学的リスクが確実に表面化しています。

日本の買収側企業にとってこれが意味することは何なのか、また、利益を享受するのは誰なのでしょうか。

  1. 日本企業の潤沢な資金は、過去 10 年ほどの間、海外での M&A に積極的に振り向けられてきました。
  2. 世界的なコロナ禍の状況と、最近のウクライナにおける戦争が、世界各地で価値を追求していた日本企業にとってゲーム・チェンジャーとなりました。
  3. 日本市場にとってこの状況は何を意味するのでしょうか。結果的に、M&A アドバイザリー事業は成長するのでしょうか。それとも優先順位が変化し、リスクの状況がこれまでとは一変するのでしょうか。

2020 年に新型コロナが感染拡大するまで、日本企業による海外市場への投資額は史上最高額を記録していました。

日本企業は世界各地で有名ブランドを買収し、国内本社の事業内容に追加していきました。

サントリーはジム・ビームなどの多くの有名飲料メーカーを買収し、日本経済新聞社は世界有数の新聞社である Financial Times を、日本郵政グループはオーストラリアのトール・グループを買収しました。

日本の巨大複合企業にとって、海外 M&A は一般的な戦略となっていたのです。

出所 : Refinitiv

これは国内市場が過密化し、競争過多であり、それゆえに成長の余地がほとんどなく、利益が圧迫されていることによるものです。また、日本の大企業が概して多額のキャッシュを抱えこんでいることも背景にあります。

新型コロナの出現により、こうした海外 M&A の好況は一挙に崩れることになりました。

買収先企業の評価のための現地視察ができず、国内では柔軟な働き方や業務継続の取り組みに気を取られ、絶えず変化する国内の新型コロナ感染対策や緊急事態宣言の中で、M&A 件数は数十年ぶりの水準まで落ち込みました。

海外 M&A への地政学的影響
世界でコロナ禍の課題が収束しつつある今、日本の企業グループは、大規模な海外 M&A 活動に再び目を向けるようになっています。

しかし、M&A の環境は突然大きく変わったことがわかります。

ウクライナでの戦争によって、通常の世界貿易の流れに大混乱が生じ、多くの市場や地域、企業の事業計画に影響が及んでいます。日本政府はウクライナでの状況に対して、過去に起きた同様の世界危機の際には見せなかったような強い態度で臨み、西側諸国と緊密に連携しながら独自の制裁を実行しています。

日経やロイターなど複数のメディアによると、日本の航空機はロシア上空を飛行できないほか、日本企業は、ロシア国内における事業のみならず、ロシア企業やロシアに関連する企業、ロシア人個人との多くの取引が難しくなっており、これは米国や英国と同様の状況といえます。

突然、リスクの方程式が、大きく変わってしまったということです。

また、メディアでもさかんに報じられていますが、総合商社の老舗である三井物産など、以前は冒険を厭わなかった企業が、ロシアにおける石油とガスの大プロジェクト、サハリン 2 への出資に今は懐疑的になっています。

三井住友フィナンシャル・グループの航空機リース事業は、ロシアの航空会社へリースした航空機が、ロシア国内から事実上動かせないことによって、数億ドルもの潜在的なリスクを抱えています。また、トヨタや三菱などの日本の自動車メーカーは、ロシアにおける販売や資金調達の縮小を余儀なくされています。

そうした企業はほかにもあり、ロシア国内だけではなく、ロシアの法人や個人と関係のある地域では同様の事態が起きています。

再び活発になり始めた日本による海外 M&A 活動にとって、これはどういう意味があるのでしょうか。これまで買収側企業が検討の際に重要視していたのは、製品の品質やマーケティング戦略、成長曲線、損益、新たな被買収側と企業文化の融合が可能か、などでした。

しかし、今日では、買収側企業がまず考慮するのは、地政学的リスクや潜在的制裁の問題、「間違った」とみなされかねない場所へ、「間違った」人々との投資による風評被害の可能性などです。

出所 : Refinitiv

日本国内でのリスクレベルの上昇
企業の株主構成、市場の所在地、現地の商慣行という複雑な状況を乗り切ることが、ポストウクライナ/ポストコロナの国際的 M&A では非常に重要になるでしょう。
新しい世界秩序は、日本に新たなレベルの国内リスクをもたらす可能性があります。

1950 年代から 1960 年代にかけての「経済的奇跡」は、世界中が購入するような高品質の製品を作る能力に支えられていましたが、現在は日本の企業グループが真の多国籍企業として行動する必要性に迫られているため、その状況は一変しています。これまで遠い市場で起きていた出来事が、東京や大阪の企業の玄関口に直接問題を運んでくる可能性があります。さらに企業文化に関する課題ももたらすでしょう。

企業グループ内に日本人以外の社員をより多く受け入れざるを得なくなっており、多国籍化の進んだすべての企業が直面してきたダイバーシティとインクルージョンに関する課題を突き付けられています。

ソニーやオリンパスのような草分け企業は、世界進出とは相容れないことが多い従来の日本的な企業文化から脱却する難しさに直面してきました。

日本はアドバイザリー業界の金の卵
この点について、アドバイザリー業界にとって、日本は利益を見込める金の卵と見ることもできます。

国内に重点を置いている日本の投資銀行では、潜在的な危険やリスクを特定し、最終的に対象資産を評価するという点で、国際的な競合他社のような深みとニュアンスのあるサービスを提供することはできないでしょう。

渡航制限が緩和されれば、羽田空港や成田空港にロンドンやニューヨークなどからの投資銀行の社員が長い列を作り、新たな脆弱性を抱えた国内市場を守りながら遠く離れた国でM&Aグロースモデルを復活させようとする日本企業に殺到する可能性は高いでしょう。

日本の買収側企業にとってこれが意味することは何なのか、また、誰が利益を享受するのでしょうか。

世界でコロナ禍の課題が収束しつつある今、日本の企業グループは、大規模な海外 M&A 活動に再び目を向けるようになっています。

注)本稿は、2022年5月24日投稿された英文ブログの翻訳です。内容に相違がある場合にはリフィニティブのグローバルサイトに掲載されている原文が優先します。

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